いったいどれだけ単語を覚えれば……
●センター試験でも知らない単語は出る
今年(2012年)のセンター試験で目を引いた単語がある。procrastinationである。5音節に及ぶ長い単語だから余計に目につく。procrastinationは自己啓発(self-help)の本ではよく目にするが、受験の世界ではほとんど見かけない。
受験生はセンター試験に出たから覚えなくてはと考えるかも知れない。しかしprocrastinationは覚えるべき基本単語ではない。実際、本文ではThis kind of avoiding or delaying of work that needs to be done is called procrastination.とあるから、文脈からそれが「先延ばし」だということは容易に読み取れる。
●『タイム』を読むには5万語が必要
英文を読むのにどれだけ単語を覚えなければならないかはよく問題になるが『Reader’s Digest Oddities in Words, Pictures and Figures』にはこんな話が載っている。
「シェイクスピア(16世紀)の語彙数は3万語、チョーサー(14世紀)は8千語、ジェイムズ・ジョイスは『ユリシーズ』のなかで3万語を用い、現代作家は1万から1万5千語を用いている。週刊誌『タイム』を読むには、バレー、科学、ガーデニング、金融にいたるまで専門用語を含む5万語が必要であり、電話での会話はわずか5千語である。いちばんよく使う語は、話し言葉では”I”、書き言葉では”the”だ」
また、西江雅之氏(言語学・文化人類学)は『引けない辞書』(日本の名随筆別巻93)のなかで、覚えるべき語彙数についてこう述べている。
「日常生活をおくるに足る単語は、言語によっては、4千語から7千語で充分である。ある言語で、単語が5千あれば日常会話の95%を理解できるとした場合、あと2、3千単語を増せば、97、8%まで理解できるようになるかというと、そうはいかない。わずか1%理解力を増すためには、場合によっては、基本5千語の2倍以上の単語を必要とする。そのためには1万語以上の単語集をつくる必要が出てくる。それなら、99%理解できるようにするためには単語数を3倍にすればよいかというと、それもうまくいかない。そのときは、もはや、数万の単語が必要である。日本語を母語とする人でも、日本語のすべての単語を記憶するということは不可能なのである」(以上要略)
●知らない単語が……、それがどうした
こんな話から、語彙数については「基本単語の4千から7千語を覚えておくのがいちばん効率がいい」ということになる。それ以上覚えても努力の割には報われず、知らない単語には必ず出くわす。センター試験であっても、知らない単語があるのは当たり前だと思った方がいい。
たとえ知らない単語があっても「それがどうした」と開き直れるメンタリティが大事である。単語の意味がわからないぐらいで、自分を恥じたり自己卑下することはない。たかだか英単語で英文に対してうろたえてはいけない。辞書を引けばすむことである。
英文を読むのに最低限の単語は必要だが、基本単語を4千覚えるか、7千覚えるかは個々人の趣味の問題だろう。
●a surprising boyは、おどろいている少年ではない
語彙数については、覚える単語の数を増やすよりも、わかってない単語をわかっていると思いこんでいることの方が問題だ。たとえば、surpriseの意味を知っているからといって、surprisingやsurprisedの意味がすんなりわかるかというと、話はそう単純ではない。
a surprising boyは、「現在分詞」=「~している」から、「おどろいている少年」と考えるのは誤りであり、また、a surprised boyは、「過去分詞」=「~した」から、「おどろいた少年」と考えるのは誤りである。それぞれ、a surprising boyは「おどろくべき少年」、a surprised boyは「おどろいている少年」である。
また、falling leavesとfallen leavesはともに、日本語訳では「落ち葉」となるが、同じ落ち葉でも情景は異なる。前者は「空中を舞い落ちる落ち葉」であり、後者は「地面に落ちた落ち葉」である。
このような分詞は、一つひとつ覚えていくよりも、なぜそのような意味になるのかを文法的に理解した方が合理的だ。分詞の意味が文法から理解できれば、分詞の語彙数は一挙に2倍、3倍に増えることになる。
2012年05月17日