英語力よりも日本語力を ― 英作文の勘所
英作文は、「文体」や「形式」を伝えることではない。伝えなければならないのは「内容」であり「情報」である。英作文のカギは、日本語の読解にある。問題文を英作しやすい日本語に書き換えられるかどうかで英作文の出来、不出来は決まる。
次の文は京都府立大学2010年(前期)の英作文の問題。
「本を読むというのは、やはりその人の趣味、たのしみ、というふうに考えたい。本を読むことで人格が向上したり、知性が顔に漂ったりする、などと考えないほうがいいだろう」
2文からなり、わずか80字ほどの文章だが英作しやすいように加工してみる。
まず最初の1文の「というふうに考えたい」は、「と考えたい」「と考える」「である」と言い換えても内容は変わらない。
また、第2文の「などと考えないほうがいいだろう」は、「と考えないほうがいい」「と考えない」「ではない」と言い換えても内容はほぼ同じ。
このように、意味内容において、「文体」や「表現形式」を変えても、伝えるべき「内容」や「情報」は何も変わらない。少なくとも欠落する「情報」はない。
●リダンダンシー(redundancy)
冗長な文としてよく引き合いに出される文がある。
「いにしえの昔、武士の侍が、山の中の山中で、馬から落ちて落馬して、女の婦人に笑われて、赤くなって赤面し、家に帰って帰宅して、小さな刀の小刀で、腹を切って切腹し、お墓の墓地に埋められた」
このように情報が重複した状態を冗長性(redundancy)という。どんな言語でも50%の冗長性があるといわれている。
英語の例を挙げれば、He is an old man.で、各単語はそれぞれ次の情報を担っている。
He :単数の男 / is :主語は三人称の単数、時制は現在 / an :一人の / old:年老いた / man:単数の男
「単数」と「男」という情報が、何度も重複しているのがわかる。He is an old man.で、重複する情報をそぎ落とせば、Heとoldだけになり、情報としては、それで十分ということになる。海外旅行で、カタコトの英語で、”Me,Station!”と言えば、必ず駅への道を教えくれる。
●できるだけシンプルに
できる限り文章を簡素化すると、圧倒的に英作しやすくなる。回りくどい表現を整理し、冗長な修飾語を削ると、文章がすっきりし内容が鮮明にる。
先に挙げた英作の問題文をさらに整理してみる。
「やはり」は、after allや、as is expectedが考えられるが、さしたる情報は含んでいないので削る。
「人格」は、personalityか、characterか、それともoneselfか。
「向上する」は、improveか、go upか、それともmake betterか。いろいろ考えつくが、「人格が向上する」は、思い切ってシンプルに、「いい人になれる」と変換できる。
「知性が顔に漂う」については、さまざまな単語が次々と思い浮かぶ。「知性」は、intellectか、intelligenceか、wisdomか、それともknowledgeか。「顔……」は、faceか、expressionか、それともlooksか。「漂う」は、is driftingか、is floatingか、それともappearsか。
しかし、こんな単語をいくら組み合わせたところで、ろくな英文にはならない。「知性が顔に漂う」は、顔の表情をイメージして映像化すれば「賢く見える」と、簡単な表現が思いつく。これは国語力というより想像力の問題。
問題文の出典は、五木寛之の『知の休日』。これだけ削ったり簡略化すると、当然、一流作家の文体が醸し出す情緒や雰囲気は失われる。それで肝心の情報の部分だけは残る。
受験生は、たかだか数年の勉強で、ニュアンスや風情が英文に翻訳できるようになるなどと考えない方がいい。英作文は英単語を継ぎはぎして作パッチワークではない。寄せ木細工の英文は途中で空中分解を起こす。
●訳文のサンプル
最後に、オリジナルの問題文と、書き換えた日本語文を並べ、それぞれの英訳を挙げておく。
「本を読むというのは、やはりその人の趣味、たのしみ、というふうに考えたい。本を読むことで人格が向上したり、知性が顔に漂ったりする、などと考えないほうがいいだろう」
I’d like to think that reading books is just a hobby or a pleasure for a person. Perhaps we should not think that reading books improves our personality or that intelligence might show on our face. ― 旺文社「全国大学入試問題正解」
I’d like to regard reading books as a hobby or pleasure. We should not think reading books will enhance our character or give us an air of intelligence. ― 教学社(赤本)
読書は趣味であり楽しみである。読書でいい人にはなれないし、賢く見えるようにもならない。
Reading books is just a hobby or pleasure. By reading books, you can’t become a better person, nor will it make you look wiser. ― かつうら英語塾
(2011年3月1日) 2020年2月5日改稿