英文の構造が見える人はほんのひとにぎり
●なぜ訳せないのか
『英語と日本語のあいだ』の中に、
次のような英文が載っている。
下線部を塾生(高2生)に訳させてみた。
I was almost sixty years old, and I don’t know how much time I had left.
Maybe another twenty years; maybe just a few months. (P113)
私は60に近かった。
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あと20年かも知れないし、ほんの数ヶ月かも知れない。
以下は塾生の解答例。
×「どれくらいの時間を過ごしてきたか分からない」
×「どれくらいの時間を残してきたか分からない」
×「私が去ってどれくらい時間がたったのか分からない」
●調べる手だてはない
著者は次のように述べている。
―英語の構文を正しく捉えるのは、けっしてやさしいことではない。大学院へ進学する層でも、主語や目的語や補語を見誤る学生は少なくない。構文がきちんと把握できるのは、ごくわずかの層でしかない。英語力は語彙力ではない。英語が読める力とは、いかに多くの単語を知っているか、ということではない。単語の意味がわからないなら辞書を引けばよい。一方、構文が掴めなければ調べる手だてはない。構文が把握できないと、何を言っているのかはわからない。ある程度の単語を覚えることは必要だとしても、単語どうしがどのようなまとまりを持ち、どのような構造を作っているのかが見抜けなければ、英語を読んだことにはならない―『英語と日本語のあいだ』(P120)
著者は東京大学大学院の教授。したがって、ここでいう大学生は東大生。それにもかかわらず、「読む力の面で、満足しうるレベルに達するのは、ごくわずかの層でしかない」と著者は言う。
このことは受験生を日々教えていて私自身も痛感している。単語は分かっても文の構造が見えなけらばトンチンカンな訳になる。構造が見えなければ、辞書を引こうが参考書を調べようが埒(らち)があかない。英文を解釈しようにもなすすべがない。
●5文型は最重要文法事項
「主語や目的語や補語を見誤る」とは、5文型が見えないということ。5文型でつまずく学生は相当数にのぼる。
ではなぜ5文型でつまずくのか。一つには、あまりにも単純な内容だから、つい分かったつもりになってしまうということ。一つには、5文型を学習する時期が高校入学直後のため、バタバタしているうちにいつの間にか通り過ぎてしまうということ。さらに、「実際の英文」と「5文型の知識」の橋渡しが、授業などで上手く機能していないことなどが考えられる。塾生の誤訳も5文型に由来するミスにほかならない。
ここで冒頭に採り上げた英文をもとに、「実際の英文」と「5文型」の橋渡しをやってみよう。
①How much time do you need?(時間はどれくらい必要か?)
②How much time do you spend studying?(勉強にどのくらい時間をかけるのか?)
①②の文から分かるように、How much timeは名詞句であり、①ではneedの目的語、②ではspendの目的語。
同様に、問題文のI don’t know how much time I had left.でも、how much timeは名詞句であり、目的語の働きをする。では、何の目的語だろうか?
●have + O + 過去分詞
塾生の誤訳から逆算すると、どの誤訳も、how much timeを”had left”の目的語だと考えているが、正しくは”had”の目的語。
正 how much time I had // left.
誤 how much time I had left // .
how much timeをtwenty yearsに置き換えれば、文型の違いがよりはっきりする。
正 I + had + twenty years + left. S+V+O+C
誤 I + had left + twenty years. S+V+O
したがって、I don’t know how much time I had left.の訳は、「私にはどれだけの時間が残されていたのか分からない」となる。
5文型の理解は、英文解釈の根幹をなす最重要文法事項と言える。
(2011年4月25日)2020年01月15日改稿