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『700選』の暗記と「ゲシュタルト崩壊」― 音読のすすめ (20)  

●1日1回の暗唱

 『700選』の暗唱回数が400回に達した。『700選』の暗記に取り組み始めてちょうど丸1年になる。50回までは「音読」を行い、それ以降は「暗唱」に切り替えた。ここでは、「音読」は英文を声に出して読むことをいい、「暗唱」は和文を見て英文を唱えることをいう。

 365日で400回だから、計算上は『700選』の全文をほぼ1日1回暗唱していることになる。正確に言えば、5センテンスを1ユニットとし、ユニットごとに10回ずつ暗唱し、1日で20ユニットをこなしている。つまり5×20で100センテンスを毎日10回ずつ暗唱している。

 7日で700センテンスになり、7日かけて『700選』を10周することになる。週に2日は休むことにしているので、『700選』の暗唱は月に30回のペースになる。

 5センテンスを10回くり返していると、1回目からだんだんスピードが上がっていく。10回目にはかなりの高速になる。高速で暗唱することが快感になり、さらに高速を目指すようになる。可能な限り高速で言おうとすると、口は半開きになり、声は小さくなる。その方が省エネで効率がよく、スピードが増す。口は限りなく黙読に近いつぶやき状態になる。これが正しい暗唱の姿かどうかはわからないが気がつくとそうなっている。

 『700選』のセンテンスは、短いのは6ワード、長いのは24ワード。100×10を暗唱し終えるのに、短いセンテンスが多いと65分、長いセンテンスが多いと75分、平均でおよそ70分。スピードは限界に近いところにきている。いちどタイム・トライアルに挑み55分台を出したことがあるが、このときは声帯は震わさず、ほとんどささやき状態になっていたので、暗唱とはいえないかも知れない。これは神経が高ぶるので、あまりやろうとは思わない。

●至福の高揚感

 『700選』の暗唱は、和文を見て英文を組み立てているのではなく、和文をコンマ数秒間チラッと見て、即座に英文を唱えている。「上の句」を聞いて「下の句」を瞬時に選び出す『百人一首』のかるた取り状態になっている。

 条件反射で暗唱しているから、和文を英文に変換する時間は実質0秒。暗唱に要する時間は、物理的に口を動かす時間に比例する。こう書くと、暗唱が、声帯・舌・唇といった発話器官だけを使うフィジカルなエクササイズに聞こえるが、実際は脳をフル回転させている。

 暗唱をしていると、脳の血流が増し、脳が活性化している気がする。和文から英文への変換を高速度で行うから、脳のスペックが向上し、情報処理が速くなるのだろう。IQがアップしたような感じになる。

 暗唱をやり終えると、満ち足りた達成感に包まれ、「今日もやり遂げた」という幸せ感に浸る。こうした至福の高揚感は、まちがいなく「継続」の原動力になっている。楽しいから続けられる。続けていると楽しくなるから、もっと続けたくなる。

 ― The more I practice, the more I realize I enjoy myself. The more I realize I enjoy myself, the more I want to practice. ―(『700選』574.をアレンジ)

 「練習すればするほど楽しんでいるのを自覚する。楽しんでいるのを自覚すればますます練習したくなる」

●ゲシュタルト崩壊

 「スラスラ言えるようになる」「英語が母語であるかのようになる」「詰まったり言いよどむことがなくなる」というのが暗唱による理想の状態だが、実際はちがう。

 暗唱していて、「この文はこれでよかったかな」「正しいようでどこかヘン」と、ふと自信を失うことがある。もっとひどいときは、出だしからまったく英文が出て来ない。頭のなかは空白になり、ひと言も発せられなくなる。もともと条件反射で暗唱していたから、ゆっくり英作しようにも、うまく組み立てられない。一瞬であっても、頭と口がフリーズした状態になる。けっきょく英文を見て、「ああそうだった」と、すぐに解決するが、そういうことがときたま起こる。

 400回も暗唱していて、こんなことが起こるといい気はしないが、実際にそれは起こる。まだまだ道半ばなのだろうとあきらめていたが、あながちそうでもない。 

 心理学用語で「ゲシュタルト崩壊」という言葉がある。同じ文字を何度も見ていると、「この文字はこんな形でよかったかな?」と思い始める現象をいう。
 
 ― 夏目漱石の『門』の冒頭に、こんな会話がある。「近来の近の字はどう書いたっけね」と尋ねた。細君は別に呆れた様子もなく、「近江のおうの字じゃなくって」と答えた。「その近江のおうの字が分らないんだ」「どうも字と云うものは不思議だよ」と始めて細君の顔を見た。「何故」「何故って、こりゃ変だと思って疑ぐり出すと分らなくなる。この間も今日の今の字で大変迷った。紙の上へちゃんと書いて見て、じっと眺めていると、何だか違ったような気がする。仕舞には見れば見る程今らしくなくなって来る」―(ウィキペディア「ゲシュタルト崩壊」より抜粋) 

 英文がいきなり口から出て来なくなることが、「ゲシュタルト崩壊」だとすれば、話は違ってくる。突然つまずくようになってはじめて暗唱も一人前ということになる。その「崩壊」は、飽くことなく暗唱してきた証であって、初心者には起こらない。ネガティブな現象が誇らしく思えてくる。

●「絶対に覚えるんだ」と心の底から決意する

 『700選』の暗記に苦しんでいる人は多い。覚えるコツは「絶対に覚えるんだ」と、断固として決意することに尽きる。心の底から決意すれば事態は変わる。

 どうしても遅れてはならない用件があって、6時に目覚ましをセットしたとする。不思議と目覚ましが鳴る前に目は覚める。「明日は必ず6時に起きるんだ」と意識するだけで必ず起きられる。頭は眠っていても、体内時計は動いている。耳は小鳥のさえずりを聞き、鼻は朝の新鮮な空気を吸い、肌は早朝のけはいを感じている。強く意識するだけで五感が働き、身体がサポートしてくれる。意識しなければ何も起こらない。目覚ましが鳴るまで心地よく眠っているだろう。

 「覚えられたらいいな」「そのうちやってみよう」「いずれやってみよう」「できたらやってみよう」。こんな生ぬるい願望では、『700選』は決して覚えられない。「自分にはムリかもしれない」と思ったら、その時点で『700選』の暗記はムリになる。

 ムリだと思う理由はいくらでも見つかる。「量が多い」「英文がむずかしい」「文法の解説がない」「例文が古い」「ネイティブだって使わない」「忙しくて時間がない」「そんな能力は自分にはない」

 しかし、断固として決意すると見える風景はちがってくる。決意することで人ごとでなくなる。お気楽な傍観者でなくなる。「どのように暗記するか」「いつまでに暗記するか」「どんな工夫をするか」「自分に合ったやり方は何か」「どうやって時間を作るか」を具体的に考えるようになる。覚えるのは自分であって他人ではない。他人と自分とはちがう。他人のマネではなく自分流のやり方を考えるようになる。他人からムリだと言われても、決意を変えてはいけない。ムリかどうかなど、やってみなければわからない。

 能力があるからチャレンジするのではない。チャレンジするから能力が生まれる。自信があるから挑むのではない。挑んだ結果、いくつもの壁を乗り越えるから自信が生まれる。『700選』の暗記は、大げさに言えば、人生を切り開いていく力と連動している。『700選』という壁を乗り越えることで、自らの力で自らの人生を切り開いていく術を一つ手に入れることになる。

 『700選』は1,000円で買える。たった1,000円で、人生を切り開く試金石が手に入るのだから、こんな安い買い物はない。

2016年09月15日

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