勝浦英語塾では、英語指導歴30年のエキスパートが、大学受験英語を通して、30年後にも通じる、生き方と在り方とその方向性を伝えています。 

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もの言う生徒が教師を育てる  
        

●「誤答」が「正答」としてまかり通る

 県内の高校の校内模試(高3生)に目を通していたら、解答の誤りが目に止まった。

 
次の英文の空所に入れるのに最も適当なものを下記のa.~d.の中から1つ選べ。

 If you are interested in buying a personal computer, I (   ) going to Akihabara.

 a. have a suggestion  b. am suggestive of  c. suggest  d. suggest you

 模範解答は c. suggestとなっているが、誤りである。問題のポイントは、going to Akihabaraで、動名詞goingの動作主体をどう見るかにある。

 ①She insisted on going there. 「彼女は自分がそこへ行くと主張した」
 ②She insisted on him (his) going there.「彼女は彼がそこへ行くべきだと主張した」

 ①では動名詞goingの動作主体は、主語のsheと一致し、「彼女」がgoingの動作主体となる。
 ②では動名詞goingの動作主体は、目的格(him)か、所有格(his)で示され、「彼」がgoingの動作主体となる。

 上記の問題文で、c. suggest を選ぶと:

 If you are interested in buying a personal computer, I suggest going to Akihabara.
 「君がパソコンを買いたいなら、私は私が秋葉原に行くことを勧める」となってしまう。

 正しくは、d. suggest youで:

 If you are interested in buying a personal computer, I suggest you going to Akihabara.
 「君がパソコンを買いたいなら、私は君が秋葉原に行くことを勧める」となる。

  goingの前に、その動作主体を表す目的格のyouを置いてはじめて文意が通る。

 動名詞は動詞から派生した準動詞だから、「誰(何)がその動作を行うのか」、すなわち「動作主体は誰(何)なのか」は、常に押さえておかなければならない。

 高校教師なら、動名詞の意味上の主語を取り違えることはないから、模範解答の誤答は、おそらく答案を作成するときに生じた表記上のミスと思われる。ただ気になるのは、採点者も含めて校内の英語科教員の誰もそのミスに気づいてないようなのだ。答案を返却する際にも、生徒に対して誤答の訂正はなかったという。「誤答」が「正答」としてまかり通ったままでは、これから本番の入試に臨む受験生の足を引っ張りかねない。

●「豊富」が「抱負」では

 次の英文も同じ校内模試からの抜粋である。

次の英文を訳せ。

Scientists spend their productive lives struggling to reach the edge of knowledge in order to make discoveries. So long as science offers an abundance of problems, it will stay alive; a lack of problems foreshadows extinction or the cessation of independent development.

解答訳:科学者は、その生産的な生活を費やして、様々な発見を行うために、知識の先端に到達しようと努力する。科学にある分野に研究すべき問題が抱負にある限り、その分野は生き残る。研究すべき問題が欠如するということは、その分野が消滅するか、独自の発展が止まる前兆である。

 

 解答訳のなかの「問題が抱負にある限り」は、「問題が豊富にある限り」の誤りだが、こちらも訂正のアナウンスはなかったという。「豊富」を「抱負」と書き間違えたのは、単なるケアレスミスと思われるが、実際の解答訳は手書きの文字なので、ワープロの変換ミスなどではない。

 同音異義語による誤字は別にして、この解答訳の日本語はかなり読みにくい。一読してすんなり意味が伝わってこないのだ。なぜだろう。

 たとえば、「科学にある分野」は、「在る分野」なのか、「或る分野」なのかまぎらわしい。「研究すべき問題が欠如する」の「欠如」とは、「本来有ることが期待される物事が欠けて足りないこと」(新明解国語辞典)の意味だから、「問題が欠如する」は、きわめて不自然なコロケーション(単語と単語のつながり)となる。

 さらに気になるのが、「生産的な生活」という訳語である。productive livesを訳したものだが、「生産的な生活」と直訳したのでは、この文脈では分かりづらい。英語でproductive ageというと、「生産年齢」と訳され、15歳から65歳までの生産活動に従事する年齢を指す。productive livesはその同等表現だと考えられ、科学者にとっての「生産活動」とは「研究生活」のことである。以下に拙訳を挙げておく。

拙訳:科学者は、さまざまな発見を行うために、最先端の知識に到達しようと必死の努力をし、その研究生活を過ごす。科学で、ある分野において取り組む べき問題がたくさんある限り、その分野は存続する。取り組む問題がなくなれば、その分野は消滅するか、その分野の独自の発展は停止することになる。

●出題の意図が見えない

 上記の英文和訳の問題は高3生が対象である。高3生を対象に、spend+時間+~ingや、so long asが問われているとは考えられない。英文の構造が複雑に込み入っているわけでもない。内容が示唆に富み含蓄があるのかといえばそうとも思えない。

 それでは、語彙力を問題にしているのかといえば、foreshadow(……の前兆を示す)や、cessation(停止)を知っている受験生など皆無だろう。訳出する上での国語力を見るというのであれば、解答訳の日本語では手本にならない。

 この問題を出題することで、生徒のどんな知識や能力を測りたいのか、首をかしげざるをえない。

●生徒が教師を育てる

 出題する側の配慮のなさも問題だが、受験する側の生徒の態度も問題だ。他者のミスをあげつらえと言いたいのではない。教師であってもミスは犯す。教師の誤答や誤字に目をつむることが敬意や従順さのあかしではない。声を上げてそれらを指摘することも学ぶ側の役目である。緊張関係があればこそお互いが成長する。

 ― 将棋の羽生善治名人は、対局で相手が悪い手を指すと不機嫌そうな顔をするという。「相手の悪手よって転がり込む勝利からは美しい棋譜は生まれない」というのが「不機嫌」の理由らしい。イチロー選手もこんなことを言っている。「自分の打撃がベストであるためには、相手投手のベストも必要」―(読売新聞・編集手帳 2014・12・16)

 教師が生徒を育てるのではない。もの言う生徒が教師を育てる。

2015年01月01日

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