英会話の基礎訓練は音読

 

 音読のすすめ (6)

●10,000時間の法則

天才!』(マルコム・グラッドウェル著)に、こんな話が載っている。

●バイオリニストの総練習時間を調べた結果、世界的なソロリストになれる人は10,000時間、優秀な人は8,000時間、プロにはなれない人は4,000時間だった。ピアニストについても、プロは10,000時間、アマチュアは2,000時間だった。

●注目すべきは、「生まれつきの天才」はいなかったということだ。一流になれるかなれないかは、「熱心に努力するかしないか」によることを調査結果は示していた。世界のトップクラスになる人間は、人より「圧倒的にたくさん」の努力を重ねている。

●世界的レベルの技術に達するには、どんな分野でも10,000時間の練習が必要である。作曲家、バスケットボール選手、小説家、アイススケート選手、ピアニスト、チェスの名人、大犯罪者など、10,000時間より短い時間で、世界的レベルに達した例はない。専門的な技能を極めるには、10,000時間が必要だということのように思える。10,000時間は「魔法の数字」(マジック・ナンバー)である。

どんな分野であれ、一流になるには練習量が半端ではないことがわかる。野球なら「素振り」、相撲なら「シコ」、陸上競技なら「ランニング」と、あらゆるスポーツには基礎訓練がある。英語学習でいえば「音読」である。

●筋肉が育っていない

初めてボールを打つのに、「素振りの練習を2、3回したことがある」では、実戦でボールは打てない。同じように、2、3回音読したことがあるくらいでは、英語はしゃべれない。英語には日本語にない音がたくさんある。音素の数でいえば、英語は45、日本語は24、といわれている。ほば倍と半分の関係だ。日本語をしゃべるときとはまったく違う口の動かし方をする。練習なしでは舌や唇は勝手に動くようにはならない。そもそも筋肉が育っていないのである。

英文法や、会話の中身も大切だが、なによりも英語をしゃべるための筋肉自体が育っていなければ始まらない。発音の練習はフィジカルト・レーニング(体育)だから、知識で覚えるというよりも、日常的に練習を積まなければ上達はない。いきなり英会話学校に行っても、筋肉が育っていなければ口は動かない。

それでは、英語学習者で、実際に英文を日常的に口にすることはどれくらいあるのだろう。中学生に聞くと、学校の授業で2、3回テキストを音読し、家では2、3回読むぐらいだという。高校生で、教科書を音読する生徒は聞いたことがない。問題を解くときも、英文を口に出すことはほとんどない。せいぜい単語や熟語を覚えるときにブツブツ声に出すぐらいである。中学生も高校生も、まとまった英文を口にすることはきわめて少ない。実際に口を動かすことのない学習で英会話などとうていおぼつかない。

●18分の音読は国際結婚と同じ?

留学したり海外に赴任しているときは、英語を日常的にしゃべっていても、帰国したとたん、英語をしゃべる機会は激減する。そのため、英会話力が衰えていくと嘆く人は多い。使わない筋肉が衰えるのは当然である。生活のなかに音読を組み込めば、少なくとも舌がサビつくのを防ぐことはできる。

こんなデータがある。「夫婦の会話、平日1日の平均会話時間はどのくらい?」という質問で、約6割の夫婦が1日の会話時間が1時間未満であると回答したという。会話は双方向だから、自分がしゃべるのは1時間の半分、すなわち30分足らずである。

しかも実際の会話では、のべつ幕なしにしゃべっているわけではない。「えーと」とか「それでー」といった言葉があいだに入る。英語でいえば、ちゃんとしたセンテンスよりも、「イエス」や「ノー」や「サンクス」といったモノシラブル(単音節)の単語でのやり取りの方が多い。

こう考えると、まとまった英文の音読を毎日、『18分だけやってみる』ということは、国際結婚をして配偶者と英語でしゃべっているのと同じだ量だと言えなくもない。

●何でも音読したくなる

英文の音読が習慣化されると、目にするものは片っ端から音読したくなる。英語に対する距離が縮まるから、英文を見たら軽い気持ちで音読できるようになる。新幹線の車内アナウンスを聞いても、座席の背もたれにある表示を見ても、ホテルの浴場の注意書きを見ても、口に出して言ってみたくなる。

以下は、どれも英作するには、すんなりとは思い浮かばない表現である。

 1. 間もなく新横浜です。(車内放送)
2. 次は終点東京です。(車内放送)

3. かけ込み乗車はおやめください。(座席の掲示板)
4. 携帯電話はマナーモードなどに切り替えてください。(座席の掲示板)
5. 不審物や持ち主のわからないお荷物は、直ちに乗務員までお知らせください。(座席の掲示板)

6. ご入浴まえには、かけ湯をお願い申し上げます。(ホテルの浴槽)

 

 1. We will soon make a brief stop at Shin-yokohama.
2. The next stop is Tokyo terminal.

3. For your safety do not rush for your train.
4. Please switch your mobile phone to silent mode.
5. Please notify the train crew immediately if you find any suspicious items or unattended baggage.

6. As a courtesy to others, please rinse yourself prior to using bath.

2014年06月17日