音読のすすめ (3)
●言うは易し行うは難し It’s easier said than done.
國弘正雄氏は中学生のときに教科書を500回から1000回読んでいたという。しかし中学の教科書を実際に1000回読んだことのある人は、いったい世の中にどれくらいいるのだろう。ひとくちに1000回といっても実行するのは容易ではない。
中3のテキストから採った以下の文章 (最下部に掲載) を、実際に1000回読んでみた。それと同時に大学受験の塾生にも1000回の音読をすすめた。1度でもチャレンジすれば音読の効用を身を持って体験できるからだ。
採り上げた文章の語数は166語である。音読すると1分かかる。1000回読むと1000分かかる。約16時間である。音読で「とばし読み」はできないので、これはだれが読んでも絶対にかかる時間数である。音読に近道や楽な道はない。
●音読がヘタだと黙読でも速く読めない
センター試験の英語で時間が足りないとこぼす生徒は多い。速く読まなくてはと「ななめ読み」や「とばし読み」をする受験生がいる。しかし「とばし読み」ができるのは、新聞であれば「見出し語」などから、中身についてあらかじめ見当がついているからである。未知の内容の英文を「とばし読み」で読んでも、それは粗雑な推測で読んでいるにすぎない。
かなり粗っぽい概算になるがこんな計算をしてみた。センター試験は80分。後半に長文が3題。前半を26分で終えれば、長文に使える時間は54分。1題につき18分である。設問に答える時間を半分の9分として、長文が600語であれば、9分(540秒)で読めばいい計算 (540秒÷600語=0.9) になる。すなわち1語につき0.9秒である。This is a book.なら4語だから3.6秒だ。
これは間延びするほどゆっくりした速度である。センター試験は、速読が求められているわけではない。「速く読まなければ時間が足りなくなる」は、根拠のない思い込みである。それでも時間が足りないというのは、黙読での読み方に欠陥があるからだ。時間が足りないとこぼす生徒の大半は音読がヘタだ。
●「音読」と「文法」と「速読」はつながっている
試験はペーパー試験だから音読がヘタでも関係ないと考える生徒は、まず発音に無頓着である。読めない単語には自己流の勝手な音を充てている。dangerousを「ダンガラス」、foreignを「フォレイガン」、doneを「ドン」など。これは漢字でいえば「学校」の意味はわかるがフリガナはふれないということである。つぎに「上手い音読」と「ヘタな音読」の違いを示しておこう。
①(She)(measured)(the)(temperature)(early)(in)(the)(morning).
②(She measured the temperature)(early in the morning).
①では(early)(in)(the)(morning)と、単語ごとにぷつんぷつんと途切れているのに対して、②では(early in the morning)を1つの意味のあるかたまりとしてとらえている。①は単語の数と同じ8拍で読むのに対して、②は単語をグループ化して2拍のリズムで読んでいる。当然2拍で読む方がリズムがあってスピードも速い。
スムーズな音読ができるのは文法ルールが正確に認識されているからだ。まず(冠詞+名詞)だから(the morning)で1かたまりとなる。つぎに(前置詞+名詞)だから(in the morning)で1かたまりとなる。さらにearlyは副詞で前置詞句を飾るから(early in the morning)で1かたまりとなる。
英文を読んで内容を理解するプロセスは、「文字」→「音」→「意味」→「イメージ」の順である。音読がヘタな生徒は、先に述べたように、まず入り口の「文字」→「音」の変換でつまずき、つぎに「音」→「意味」→「イメージ」の変換でさらにもたつく。
①の読み方では単語が音としてつながっていないので、「彼女は」「測った」「温度を」「早く」「朝に」と意味がバラバラに並ぶことになり、意味を並べ替えなければイメージ化できない。②の読み方なら「彼女は温度を測った」「朝早く」となるから即座にイメージが浮かんでくる。
●「音読」と「大学入試の英文」
Much people read in papers is false. は大学入試問題から採ったものだが、誤訳する受験生は多い。「誤った読み方」と「正しい読み方」の違いはこうである。
【誤】(Much people read)(in papers)(is false).「多くの人々が……」
【正】(Much)(people read in papers)(is false).「人々が新聞で読む多くは……」
下部に掲載した中3のテキストから「意味のまとまり」を取り違えた読み方の例を挙げておこう。
【誤】(The rays)(that we get from)(the sun produce solar energy).
【正】(The rays)(that we get from the sun)(produce solar energy).
正しい読み方ができるのは文法力にある。中3までの教科書には、「不定詞」「動名詞」「分詞」「関係詞」「that節」といった主要な項目がすでに網羅されている。これらの文法事項は文構造を分析的に把握する上で欠かせない要素でもある。
音読をくり返すことでこうした英文を分析的に見る目が養われていく。”You is~.”や”He am~.”と聞けば、だれでも生理的に違和感を感じるように、 文法の誤りには身体が反応するようになる。音読が上手いということは、文法知識がたしかな形で身についていることの証であり、さらに音読をくり返すことで、その文法知識が使えるレベルにまで身体に刷り込まれていく。
「音読力」「文法力」「速読力」の3者は見えないところで密接に結びついている。「とばし読み」や「ななめ読み」をすることが速読ではない。音読をくり返すことこそ速読への王道なのである。
Clean Energy Sources―PROGRAM 8
Pat: What are you doing?
Daisuke: I’m making a windmill which really works.
Pat: That’s great. I think windmills are useful for our future.
Daisuke: I think so too. They produce electricity, but they don’t use fossil fuels.
Pat: That’s important. The amount of fossil fuels which we can use is very small.
Daisuke: Yes. But wind power isn’t. It’s a kind of energy which we can use in the future. And windmills don’t give off greenhouse gases.
Pat: So we can say wind power is a clean energy source.
Today I’m going to talk about Solar energy. The sun has given us a lot of energy for a very long time. The rays that we get from the sun produce solar energy. We can change solar energy to electricity in different ways.
First, sunlight is changed to electricity by solar cells. This system is used to power clocks, calculators, and even cellphones.
Second, to produce electricity, we can use the steam that solar heat makes. It turns turbines in power stations.
SUNSHINE ENGLISH COURSE 3 『サンシャイン3』(開隆堂)
2013年12月07日