高校生諸君、英文はそんな読み方でいいのか
●英文の読み方について、県立高校1年生用、『学習ガイドブック』にはこうある
1.その課全体にざっと目を通して大まかな内容を把握する。
2.本文を見ずに音声CDを2~3回聴き、何について書かれているか大意を把握する。
3.本文を見てパラグラフ(段落)のトピックセンテンス(主題文)に注目する。
4.一文ずつ精読する。ただし、わからないところがあっても、辞書は引かずに、文脈から推測すること。実は、これが一番大切な作業で、読解に必要な把握力、想像力を鍛える訓練になる。
5.以上の段階を終えて、はじめて辞書を引き、すべての文意を明らかにする。その際に、最初にやった大意把握が役に立つ。
●私ならこうアドバイスする
一文ずつていねいに精読する。決して速く読もうとしてはいけない。スピードが目的であってはいけない。読むということは、書かれた内容を正確に理解することであり、それを味わい、読んだことで何か生産的な変化が自分の中に起こることをいう。
速く読もうとすると雑な読み方になる。雑な読み方とは、飛ばし読みや、斜め読みをいう。あるいは、感覚やフィーリングを頼りに、勝手な思い込みで読むことをいう。
人は習慣で生きている。雑な読み方をくり返していると、それが習慣になり、いい加減が当たり前になる。ついには、自分がいい加減な読み方をしていることにすら気づかなくなる。
●実例を挙げておこう
①A fat is swimming in the soup.
②There’s no seat in the car, so he kept standing.
③No one can know the benefit of the lighthouses save those who have neared the coast on starless nights.
①太った人がスープの中を泳いでいる。
②車には座席がなかったので、彼は立ったままでいた。
③星のない夜に沿岸に近づいた人々を、灯台の恩恵が救うことを誰も知ることができない。
―解説―
辞書を引かずに想像や推測で読んでいると、とんでもない誤りを犯す。
①これは、「デブが嬉しそうにスープの中を泳いでいる」というファンタジーではない。
「脂の固まりがスープに浮かんでいる」
②座席のない車とはどんな車か。中に人が立ったままで車が走行しては危険だ。
「列車の車両に空席がなかったので、彼は立っていた」
③「灯台」が人を救うことはあっても、「灯台の恩恵」は人を救わない。
「星のない夜に沿岸に近づいたことのある人々を除いて、誰も灯台のありがたさはわからない」
saveは「~を救う」という動詞ではなく、「~を除いて」という前置詞。the benefitが主語で、saveが述語動詞なら、savesとなるはず。品詞を取り違え、文構造を間違えている。
誤:No one can know [the benefit of the lighthouses save those who have neared the coast on starless nights].
正:No one can know the benefit of the lighthouses (save those who have neared the coast on starless nights).
●思い込みが誤解をうむ
人間は保守的な生き物だから、いったんこうだと思い込んでしまうと修正がむずかしくなる。
白黒のシルエットのだまし絵は、老婆に見えたり、若い女性に見えたりする。ひとたび老婆だと思い込んで見てしまうと、若い女性は見えなくなる。そして、2つの画像を同時に見ることはできない。
犯罪捜査の思い込みが冤罪をうみ、医者の思い込みが誤診をうむ。
思い込みを戒める文章が『英標』(例題98)にある。
医学部の教授が学生をテストする。「これから、指を汚水に浸し、口に入れるから、私にならって、君たちに同じことをやって欲しい」と言った。学生は指を汚水に浸し、我慢してそれを口に入れた。しかし、教授が汚水に入れたのは中指で、口に入れたのは薬指だった。そのことに気づいた学生はだれもいなかった。教授は、事実をあるがままに観察することの大切さを学生に説いた。
同書の練習問題【7】でも、われわれの思い込みに釘を刺す。
われわれは自分の趣味、職業、偏見によって世の中を見る。自己流の尺度で隣人を測り、自分勝手な算術で隣人の品定めをする。主観的にものをながめ、客観的にはながめない。見えるものだけをながめ、見なければならないものは見ない。そして真理という多彩なものについて間違った推測をする。
●『学習ガイドブック』批判
思い込みや推測を排して、世の中を見ようとするのが真っ当なものの見方だが、『学習ガイドブック』のアドバイスは違う。文脈から推測することが一番大切な作業だという。推測することを最優先事項とする学問など聞いたことがない。
おそらく、これを書いた教師はそのように英文を読んできたのだろう。1979年に共通一次試験が始まり、以来、マークシート方式が主流になった。今から42年前の当時、18歳だった受験生は現在60歳。こう考えると、今の現役の英語教師は全員がマークシート世代ということになる。
マークシートは、4択から答えを選べばいい。曖昧な理解であっても解答できる。マークシートの問題を解くのに一番大事なのは、推測する力なのだろう。正確な読解力は二の次である。マークシート形式のTOEICがこの世代に人気があるのもうなずける。TOEICで満点を取ったからといって、英語が使いこなせるわけではない。
声を大にして言っておきたい。われわれは4択のマークシートに答えるために英語を学んでいるのではない。
●音声CDについて
オンライン英会話を日々欠かさず受講して4年になる。レッスン回数は1500回を超える。レッスンのテキストはニュース記事。記事を読む前に1分半ほどの音源を数回聴いている。理解度は50%程度。人名や肩書、組織名や地名といった固有名詞がでてくるたびに耳が混乱する。大きな数字は位取りが異なるからお手上げ状態。
高校生がいきなりCDを聴いてもほとんど理解できないだろう。CDの利用の仕方はこうなる。
CDを聴く前に、まず辞書を駆使して英文を精読する。電子辞書ではなく紙辞書を使う。電子辞書は雑な読み方と親和性があり、精読にはなじまない。意味だけを調べるのではなく、発音、アクセント、品詞、他動詞か自動詞かも区別する。使い方の例文にも目を通す。
英文法をベースに節と句を整理し内容を正確に理解する。余すところなく隅々まで理解したら、初めてCDを聴く。その際に、シャドーイングなどという無謀なことをやる必要はない。シャドーイングは同時通訳者などのプロがやる練習法だから高校生には無用。
テキストの英文を目で追いながらCDを聴く。その際、CDに合わせて口パクか小声で音読する。口パクにすると、自分の声に邪魔されずにCDの音がよく聞こえる。次に、テキストを見ながら、CDに合わせて普通の声で音読する。最後にCDを聴かずに自分だけで音読する。
これを2セットやれば、発音が改善されるだけでなく、文章全体の内容がよりハッキリわかるようになる。
●要約する
最後に、自分が読んだ文章はどういう内容かを、人に伝えるような気持ちで要約する。英語で要約するといいが、日本語でもかまわない。
その際、文構造や文法、単語やイディオムにはいっさい目を向けず、ひたすら内容にのみ集中する。いままで、ゆっくり精読してきた文章を高速で読み飛ばす。速いほどいい。
ここでは、先に批判した「飛ばし読み」「拾い読み」「斜め読み」を駆使する。むしろ、そういう読み方をしなければ要約はできない。特別な技術はいらない。速く読もうとすれば、自然とそういう読み方になる。
要約は、いちど目を通したらできるというものでなく、同じ文章に何度も目を通さなければできない。部分と全体を何度も往復する。くり返すたびに、要約文が頭の中で熟成され、洗練され、まとまったものになっていく。
「キーワードは?」「キーフレーズは?」「キーセンテンスは?」などと考える必要はない。特別な技巧など知らなくても、何がキーワードで、どこにキーフレーズがあるかは自動的にわかる。
要約こそが、日英語を問わず、文章を読むことの最終的なゴールになる。何の本かと問われ、これこれしかじかと答えられないなら、本を読んだことにならない。
●この文章の要約
・ゆっくり精読する。速く読もうとしてはいけない。速さを目的にすると雑になる。
・こまめに辞書を引く。紙辞書を使いこなす。発音、品詞、例文にいたるまで目を通す。
・英文法を駆使し、込み入った文構造をつぶさに解明する。
・推測や思い込みは、とことん排除する。
・英文の内容を十分に理解したうえで、テキストを見ながら、CDを聴き、音読する。
・英語または日本語で要約する。要約こそが文章を読むことの最終着地点となる。
2021年9月5日