単語レモン
●めくるだけで覚える単語集
ブックオフで懐かしい本を見つけた。『単語レモン』。30年以上も前にチャレンジしたことのある本の復刻版。帯には「100万部のベストセラー」「著者が洋書を読み漁って収集した日常語を収録」「受験にも日常会話にも役立つ」「英語はもらった」「みるみる頭にinput」とある。
見開き2ページに52個の英単語、次の見開き2ページにはその日本語訳。英単語を見て意味がわからなければ、次のページの同じ位置に日本語訳が見つかる。逆も同じ。位置関係が同じだから、対応している箇所を見つけるのに迷うことはない。めくるだけで、「英単語→日本語」「日本語→英単語」の練習ができる。単語の配列や難易度はランダム。
全部で52セクションあるので、収録語数は52×52=2704語。対象は受験生や英検2級以上の社会人といったところ。マンガの挿絵が所々にある。「manual」には「手のひらの絵」、「destroy」には「カナヅチで壁を壊す絵」がついている。塾生の女子に見せたら、「あっ、かわいい」が第一声だった。楽しくて取っつきやすい。
英単語が無機質に並んでいると、圧倒されてやる気が失せる。同書は違って、マス目の枠の中に、大きな文字で英単語が収まっている。新聞の大見出しのサイズだからかなり大きい。「実験装置」「保護貿易主義」「身体障害者」と堅苦しい語彙であっても、「コミカルなマンガ」と「大きい文字」のせいで、圧迫感を感じさせない。
さらに、英単語には、「発音記号」と「カタカナ読み」が併記されていて、発音記号が苦手な初心者にも優しい。英単語protectionismには、日本語訳の「保護貿易主義」が連想し易いように「ほ」の字のヒントがついている。逆に、日本語訳「身体障害者」には、the handicappedが思い浮かび易いように「t・h」のアルファベットのヒントがついている。こんなヒントがあるだけで、練習するときの変換スピードが大幅にアップする。編集の工夫で、こうも取っつきやすくなるのかと感心する。同書がミリオンセラーであることもうなずける。
●一気に駆け抜けるのがベスト
10日で100個の単語を覚えるのに、どちらが上手くいくか。「1日10個ずつ覚えて10日かける」のと「毎日100個覚えてそれを10日続ける」のと。正解は後者の方。
52セクションあると、1日に1セクション(52語)ずつ覚えていけば、52日で片づくと考えたくなる。しかし、これは必ず失敗する。数日で投げ出すのが関の山。丁寧に覚えようとすると続かなくなる。完全に覚えてから次に進む戦略では、挫折する。覚えても覚えなくても、委細かまわず一気に最後まで駆け抜けるのがコツ。いい加減に、気楽に取り組む方が成功する。
ウルシを塗るのに、茶わんを4分割し、1/4だけにウルシを塗り重ねたりはしない。茶わん全体にウルシを塗り、その工程を繰り返す。分割せずに52セクション全部を「通し」で暗記するのがいい。粗っぽくても「一気に最後まで」を繰り返しているうちに頭の中に定着する。1回目はぎこちなくても、2回、3回と繰り返すうちにスムーズに口から出てくるようになる。
『新・基本英文700選』(駿台文庫)の暗記を塾生に勧めていた時期がある。大部分の生徒が、「100ずつ覚えれば7日で終わる」と考え、挫折していった。『700選』の暗記は相当に手強い。分割して暗記しようとした塾生はことごとく討ち死にした。全国の受験生の中でも達成できるのは3%に満たないだろう。塾生の1人が『700選』の暗記をやり遂げ、全国模試で1位を取ったことがある。彼は『700選』全体を分割せずに覚えていった。
途中で挫折する例はこんなところにもある。古書店で洋書をぱらぱらめくると、最初の1,2ページだけに単語の意味の書き込みがある。あとのページは真っさら。意気込んで原書を読もうとしたものの早々と諦めたのがうかがえる。
●日本語訳は無視、英単語のアウトプットのみに特化
『700選』の攻略に比べれば、『単語レモン』の暗記は楽勝。さらに効率よく覚えるには、「英単語→日本語訳」の練習は捨てるといい。日本語訳の練習はいらない。「日本語訳→英単語」の変換だけをひたすら繰り返せば十分。「日本語訳→英単語」を繰り返しているうちに日本語訳は勝手に頭に入ってくる。
漢字の書き取りで、「ふりがな」を振る練習はしなくても、「ふりがな」を見て、漢字が書ければ、それは読めることを意味する。
「英単語→日本語訳」を省くことで、作業量は1/2になるので効率は2倍にアップする。ある単語が自分のものになったかどうかは、その単語が使えるかどうかだから、ひたすら英単語のアウトプットだけに専念すればいい。「英→日」は不要で、「日→英」だけに特化する。
さらに目安として、1語につき1秒を切ることを目標に設定するといい。ある単語が口から出てくるのに1秒以上かかるようでは、実際の会話では使えない。見開き2ページに52個の言葉が載っているので、52秒を切ることを目安に練習する。52秒を切れば上がりとしてゲーム的に楽しむ。ストップウォッチは必需品。
易しい単語と難しい単語がほどよく混ざっていて、飽きもせずうんざりもせず、それが快適なリズムを生む。
●英単語ピーナツ
『単語レモン』の難易度が高すぎると感じる人には、『英単語ピーナツ』がお奨め。著者は異なるが、『ピーナツ』も『レモン』と同じ作りになっている。『ピーナツ』 の方は、「金」「銀」「銅」「BASIC 1000」「JUNIOR」と、レベル別の単語集がシリーズで出ている。
「JUNIOR」版にはこんな単語が並んでいる。「赤いバラ→ a r.d r..e」「オレンジを栽培する→g..w or…es」「すばらしい発見→a fan…tic dis…ery」「目を閉じる→c…e my e..s」「英会話→En…sh con…sation」
2020年3月1日