おすすめのシャドーイング教材
●聞き流すだけでは効果は薄い
リスニングはむずかしい。スピーキングよりもむずかしい。「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能のなかで一番むずかしい部類に分類されるだろう。リスニング力を高めようと、一日じゅう音源を聞いてもその効果は限定的である。
数年前、「スピードラーニング」という会社が倒産した。「聞き流すだけ」で、英語が聞き取れしゃべれるようになるというキャッチコピーで一世を風靡していた時期がある。
同社は、教材を聞き流すだけで国際空港で英語の案内が聞こえるようになるというCMを流していたが、詐欺のようなCMだった。空港のアナウンスは、便名と行き先と時刻を言っているだけで、特別な訓練など積まなくても誰にでも聞こえるようになっている。
里山に暮らし、朝から晩まで小鳥のさえずりを聞いているからといって、小鳥のようにさえずるようにはならない。本をたくさん読む読書家がみんな作家になれるわけではない。
●シャドーイングのすすめ
リスニングは、必ず聞き取るんだという断固たる意思を持って聞かない限り上達しない。その意味で、シャドーイングは効果がある。音源から流れてくるセンテンスを聞いて、そのままをくり返すことで集中力を必要とする。
ただし、シャドーイングは実際にやってみると相当むずかしい。試しに日本語のニュース番組で、アナウンサーの言葉をシャドーイングしてみると、その集中力は1分も続かないかもしれない。そのシャドーイングを英語で行うのはなおさら大変である。
シャドーイングは単純な動作に見えるが、脳は複雑なプロセスを処理している。耳から入ってきた音を大脳に伝え、大脳はその音を運動神経に伝え、口や声帯を動かす。インプットとアウトプットを瞬時に行うため相当の負荷がかかる。さらに、自分の声が音源を聞き取ろうとする耳を邪魔するから一層むずかしい。
●TED Talksのすすめ
TED Talks(Technology Entertainment Design)は、各界の専門家や著名人のスピーチを公開している。トピックはさまざまで、長さは5分から20分ほど。自分の興味の持てるスピーチをYouTube動画で視聴できる。
英語の字幕を出すこともできるし、日本語の字幕に変えることもできる。字幕なしの状態も設定できる。再生速度も0.25から2.0まで選べる。
おすすめのTED動画がある。「成功のカギは、やり抜く力」。タイトルも興味をそそる。再生時間も6分ほどだから、空き時間に気軽に取り組むことができる。
動画なので、話者の身振り手振り立ち居振る舞いがよく分かり、「これを訴えたい」という話者のパッションが伝わってくる。この伝えたい熱意こそスピーチのエッセンスである。原稿を棒読みする国会の大臣の答弁とは大違いである。顔が大写しになる場面も多くあり、口の動きがよく見える。
この動画には、シャドーイングに特化した「別のサイト」がある。短いパーツに分解され、その短いパーツが3度くり返されるから、ムリなくシャドーイングの練習ができる。とても使いやすいサイトである。
ムリをせず、やさしいことから始めることをすすめる。テキストを見ながら0.75倍速で始めるといい。数回くり返したら上達するというものではない。私は、この「やり抜く力」のシャドーイングを、他の作業をしながらノーマルスピードで行うことができる。時折、1.25倍速に挑戦してみることがあるが、それができるようになるまでには100回以上の練習を要した。
このスピーチのエンディングは耳に残る。
In other words, we need to be gritty about getting our kids grittier. Thank you.
●「成功のカギは、やり抜く力」(アンジェラ・リー・ダックワース)の全文
1. When I was 27 years old, I left a very demanding job in management consulting for a job that was even more demanding: teaching.
1.私が27歳のとき、私は経営コンサルのとても厳しい仕事を辞め、もっときつい仕事に就きました。教師です。
2. I went to teach seventh graders math in the New York City public schools. And like any teacher, I made quizzes and tests. I gave out homework assignments. When the work came back, I calculated grades.
2.ニューヨークの公立中学校で1年生に数学を教えました。他の先生と同様に、小テストや試験を作り、宿題を出しました。宿題が戻ってくれば、成績をつけました。
3. What struck me was that IQ was not the only difference between my best and my worst students.
3.衝撃を受けたのは、優秀な生徒と劣等生の違いはIQだけではないということです。
4. Some of my strongest performers did not have stratospheric IQ scores. Some of my smartest kids weren’t doing so well. And that got me thinking.
4.成績がとてもよかった生徒でも、飛び抜けて高いIQではない子もいたのです。頭がすごくよくても成績の良くない子もいました。そこで私は考えたのです。
5. The kinds of things you need to learn in seventh grade math, sure, they’re hard: ratios, decimals, the area of a parallelogram. But these concepts are not impossible, and I was firmly convinced that every one of my students could learn the material if they worked hard and long enough.
5.中学1年の数学で習うことは、確かに難しいものです、割合、小数、平行四辺形の面積など。でも、こうした概念の習得は不可能なことではありません。どの生徒も十分な時間をかけて、一生懸命勉強すれば教材を習得できると確信していました。
6. After several more years of teaching, I came to the conclusion that what we need in education is a much better understanding of students and learning from a motivational perspective, from a psychological perspective.
6.数年の教師生活を経て、私はある結論にたどり着きました。教育で必要なのは動機付けや心理学の観点から生徒や学習についてもっとよく理解することなのです。
7. In education, the one thing we know how to measure best is IQ. But what if doing well in school and in life depends on much more than your ability to learn quickly and easily?
7.教育において、私たちが 唯一よく知っているモノサシは IQです。でも、もし学校や人生でうまくやれるかが、すぐに簡単に学習する能力以外にかかっているとしたらどうでしょうか?
8. So I left the classroom, and I went to graduate school to become a psychologist. I started studying kids and adults in all kinds of super challenging settings, and in every study my question was, who is successful here and why?
8.だから、私は教壇を下りて、心理学者になるために大学院に行きました。様々な超挑戦的な環境に置かれた子どもや大人についての研究を始めました。どの研究でも私が考えていたのは、誰が成功し、それはなぜかでした。
9. My research team and I went to West Point Military Academy. We tried to predict which cadets would stay in military training and which would drop out.
9.私たち研究チームは ウエストポイント陸軍士官学校に行き、どの士官候補生が陸軍訓練に残り、誰が中退するか、予想しようとしました。
10. We went to the National Spelling Bee and tried to predict which children would advance farthest in competition.
10.私たちは全国スペリング・コンテストに行き、どの子どもが競争でより勝ち残るか、予想しようとしました。
11. We studied rookie teachers working in really tough neighborhoods, asking which teachers are still going to be here in teaching by the end of the school year, and of those, who will be the most effective at improving learning outcomes for their students?
11.厳しい地域で教える新人教師を調べて、どの教師が学年が終わるまで教え続けていて、そのうち誰が、生徒の学習成果をあげるのに最も成功するか考えました。
12. We partnered with private companies, asking which of these salespeople is going to keep their jobs? And who’s going to earn the most money?
12.民間企業とも提携して、どの販売員が仕事を続け、そして誰が一番お金を稼ぐか、調べました。
13. In all those very different contexts, one characteristic emerged as a significant predictor of success. And it wasn’t social intelligence. It wasn’t good looks, physical health, and it wasn’t IQ. It was grit.
13.こうした様々な状況において、ある一つの特徴が成功を示すものとして浮かび上がりました。それは社会的知性ではありません。ルックスでも、身体的健康でも、IQでもありません。それはやり抜く力でした。
14. Grit is passion and perseverance for very long-term goals. Grit is having stamina. Grit is sticking with your future, day in, day out, not just for the week, not just for the month, but for years, and working really hard to make that future a reality. Grit is living life like it’s a marathon, not a sprint.
14.やり抜く力とは、超長期目標に向けた情熱や忍耐力です。スタミナがあることです。やり抜く力は、明けても暮れても、自らの将来にこだわることです。その週だけとか、その月だけではなく、何年もの間、一生懸命に取組み、その夢を実現することです。やり抜く力は、短距離走ではなく、マラソンを走るように生きることです。
15.A few years ago, I started studying grit in the Chicago public schools. I asked thousands of high school juniors to take grit questionnaires, and then waited around more than a year to see who would graduate.
15.数年前、シカゴの公立学校で、やり抜く力の研究を始めました。何千人もの高校2年生にやり抜く力に関するアンケートをして、1年間以上待って、誰が卒業するか見ました。
16. Turns out that grittier kids were significantly more likely to graduate, even when I matched them on every characteristic I could measure, things like family income, standardized achievement test scores, even how safe kids felt when they were at school.
16.結果、やり抜く力が高い方が、より卒業にたどり着いていました。 それは様々な数値指標を同じにして比較したとしてもです。家族の収入や、標準学力試験の成績、学校でどれだけ安全に感じているかが同じでもです。
17. So it’s not just at West Point or the National Spelling Bee that grit matters. It’s also in school, especially for kids at risk for dropping out.
17.やり抜く力が重要だったのは、陸軍士官学校や、全国スペリング・コンテストだけでなく学校でもです。特に学校では、落第ギリギリの生徒にとって重要でした。
18. To me, the most shocking thing about grit is how little we know, how little science knows, about building it.
18.私にとって、やり抜く力について最もショックだったのは、やり抜く力を育てることについて、私たちも科学もほとんど知らないということです。
19. Every day, parents and teachers ask me, “How do I build grit in kids? What do I do to teach kids a solid work ethic? How do I keep them motivated for the long run?” The honest answer is, I don’t know.
19.毎日、親御さんや先生に聞かれます。「子どものやり抜く力をどう育てるか? 学習意欲をどう教えるか? どうやって長い間モチベーションを保たせさせるか?」正直なところ、分かりません。
20. What I do know is that talent doesn’t make you gritty.
20.分かっているのは、才能とやり抜く力は違うことです。
21. Our data show very clearly that there are many talented individuals who simply do not follow through on their commitments.
21.私たちのデータがはっきり示す通り、才能があっても、純粋に最後まで決めた事をやり抜けない人たちがたくさんいます。
22. In fact, in our data, grit is usually unrelated or even inversely related to measures of talent.
22.事実、データによれば、やり抜く力は才能の高さとは通常関係がなく、むしろ反比例さえしているのです。
23. So far, the best idea I’ve heard about building grit in kids is something called “growth mindset.” This is an idea developed at Stanford University by Carol Dweck, and it is the belief that the ability to learn is not fixed, that it can change with your effort.
23.これまで聞いた中で、子どものやり抜く力を育てるのに一番よいのは、「成長思考」と呼ばれるものです。これはスタンフォード大学のキャロル・ドウェックが見出したもので、成功思考とは、学習する能力は固定しておらず、努力によって変えられると信じることです。
24. Dr. Dweck has shown that when kids read and learn about the brain and how it changes and grows in response to challenge, they’re much more likely to persevere when they fail, because they don’t believe that failure is a permanent condition.
24.ドウェック博士が示したのは、子どもたちが脳の機能や課題に対する脳の変化、成長について学ぶと、失敗したときに、より辛抱できるようになることです。失敗は永続的な状態でないと信じているからです。
25. So growth mindset is a great idea for building grit. But we need more.
25.ですから、成長思考はやり抜く力を育てるのにとても良いのです。でも、それだけでは足りません。
26. And that’s where I’m going to end my remarks, because that’s where we are. That’s the work that stands before us. We need to take our best ideas, our strongest intuitions, and we need to test them.
26.ということで私のスピーチを終わります、私たちはまだその段階だからです。それが私たちの前に立ちはだかる仕事だからです。私たちは最高のアイデア、最も強い直感を手に入れ、それをテストする必要があります。
27. We need to measure whether we’ve been successful, and we have to be willing to fail, to be wrong, to start over again with lessons learned.
27.私たちは成功したかどうかを測る必要があり、失敗や間違いをいとわず、教訓を得てもう一度やり直す必要があります。
28. In other words, we need to be gritty about getting our kids grittier. Thank you.
28.つまり、子どもたちのやり抜く力を高めるため、私たち自身がやり抜かないといけないのです。ありがとうございました。
2023年10月21日