ダラダラに終止符を打て
●先延ばしの悪癖
仕事や勉強に取りかかるのに、だれしも悪戦苦闘する。やるべき作業を「そのうち」「あとで」「明日から」と延期してしまうことはだれにでもある。
2012年のセンター試験の最後の長文はprocrastination(先延ばし)がテーマだった。
「先延ばし」とは、to avoid or delay work that needs to be done(やるべき仕事を避けたり引き延ばすこと)とある。
面白い記事だが、これを読んだからといって、先延ばしの悪癖が改善されるわけではない。「先延ばし」が”procrastination”という1語で表記されていることから、それだけ英語圏で広く行き渡った概念なのがうかがえる。
●18分集中法
『18分集中法』(ちくま新書・菅野仁著)には助けられている。5、6年前のこと、帰りの電車で読もうと、駅ビルの書店でたまたま同書を買った。私には大当たりだった。以後、デスクワークの作業効率が大幅にアップした。
「教材を作ったり」「書類を作成したり」「文章を書いたり」と、面倒な作業は限りなくある。すべて18分を1ユニットにして処理している。18分を計るのに使っているキッチンタイマーはデスクの必需品。ボタンの表示文字は、指で何度も押すためほとんど消えかけている。
私の場合、400字詰め原稿用紙で6枚分の文章を書くと約6時間かかる。1枚につき1時間。6枚の原稿だからといって一気に6時間で書き上げているわけではない。18分を1ユニットとして小分けに分割して書いている。18分×3=54分。これを6回くり返す、すなわち18分×3×6で、1本の原稿ができ上ることになる。
一息に6時間かけて原稿を書いたことはあるが、今はやらない。「6時間かけて文章を書かねば」と考えただけで気が滅入る。文字通り「先延ばし」が始まる。その点、「18分」は気楽に取り組める。毎日18分をくり返せば18日で1本の文章ができ上る。「6時間×1」と「18分×18」では、被るストレスに雲泥の差がある。18分なら、フットワークが軽くなり気負わずに作業に取り組める。
■時間管理法
ここで、同書『18分集中法』の要略を紹介しておこう。
「こうしよう」と思ったことを実行に移すことは簡単なようでむずかしい。手間のかかる仕事でもないのに、気がつくと数日が経っている。特に用事がない日でもダラダラと過ごして、あっという間に1日が終わる。
後ろ向きな気持ちで仕事をやると2時間くらいはすぐに経つ。しかも進展はほとんどみられない。
■とりあえず18分だけ
「とにかく18分だけ頑張ってみる」「その先のことは考えない」「18分でもゼロに比べれば1歩進んでいる」「とにかく最初の1歩を踏み出す」
やりたくない仕事、気がのらない仕事、苦手な学科でも、とにかく18分だけ手をつけてみる。そうすることで次の段階に自分をもっていける。
18分だけは仕事に向き合う決意を自分にいいきかせる。それ以上のことは要求しない。とにかく今日1日のうちで18分だけはイヤな仕事に向き合うことを決意する。
18分間イヤなタスクに向き合えた自分をほめる。「あんなにイヤだったタスクに向き合えたオレはすばらしい」と。無理はせずに18分だけは頑張る。
90分や60分は集中力の持続には長すぎる。18分は長すぎず、短すぎず、適度な時間。タイマーを18分にセットし、その時間だけ義務としてタスクに向かう。やがてどこかでやる気の「浮揚感」がわく。それまで、ひたすら18分をくり返す。
■中途半端な居心地の悪さ
20分の場合、区切りがいいので、そこで安心してしまう。20分を3回くり返すと1時間になり1区切り感がある。この安心感が問題。
区切りのいいところでタスクを終えると、次のタスクに向かう際の「見えない壁」になる。中途半端なところで止めると居心地が悪い。だから次のタスクにすぐ向かいたくなる。この「中途半端な居心地の悪さ」が、次への継続を生む。この「未達成感」「おあずけ感」が次のセットへの継続の力になる。
ノリノリで文章を書いている途中で休憩をいれる方が再開がしやい。切りがいいところで止めると、再開がむずかしくなる。読書も、長時間ダラダラ読むよりも、18分だけしっかり読もうとすると、取りかかりやすく、集中しやすい。
■18分で休憩を入れる
18分で短い休憩をいれる。18分を何回くり返すかはそのときのコンディションによる。休憩については、何分休まなくてはと決めたり、タイマーで休憩時間を計ったりしない方がいい。
休憩時間を設定すると、窮屈な感じがして効率が落ちる。ゆっくりめの休みをとるのがいい。自由に休憩をとる。休憩時間の長さは自由というのがストレスを感じさせないコツ。18分頑張って3時間休むのもOK。
●見られると効率が上がる
最後に、同書にはないが、より効果的な「18分集中法」のやり方を付け加えておこう。
人に見られていると生産性が上がるという実験がある。「ホーソン効果」と呼ばれている。末期のガン患者でも、見舞いの人数が多いほど長く生存するといわれている。
他人がわざわざ自分の行動に注目してくれたり、見守ってくれることはない。だが、自分で自分の行動を見守ることはできる。自分がこなしたタスクを記録し、視覚化しておくと、自分で自分を客観的に分析できモチベーションが高まる。
私は、18分のタスクを終えるごとに、1とか2とか、その回数をカウントしてノートに記録している。月ごとにやり遂げたタスク数を集計している。去年1年間の「書くタスク」の回数を合計すると706になる。18分×706回÷60分で、およそ212時間。これは文章を書くことに費やした時間数だから、1年間で212枚の原稿を書いてきたことになる。
2020年1月6日