新々英文解釈研究
●精読の喜び
『新々英文解釈研究』(山崎貞著)は、私が高校時代の指定図書だった。校内の仲間内では、『新々』と呼んでいた。校内模試の一部はここから出題された。
いま目を通しても難しい英文がある。当時、独力で理解していたとは思えないが、悪戦苦闘して読んだ記憶がある。
厚手の表紙でしっかりとした装丁だったが、使い込んでボロボロになっていた。テープでがっちりと固め、かろうじてバラバラに分解するのを免れていた。いま、手元には復刻版がある。
当時はまだマークシート方式の問題はなく、英語の勉強といえば、英文の精読が中心だった。同書の英文がむずかしいからといって、苦痛だったり、嫌だと思ったことはなかった。試験に出るからと、仕方なく読み始めたものの、次第に英文と格闘することに夢中になっていった。ああでもないこうでもないと苦闘の末、ストーンと腑に落ちたときは感動すら覚えた。
しかし、辞書をいくら引いても、読めないものは読めない。どんな文法ルールが潜んでいて、なぜ自分が読めないのかも、当時の英語力では知るよしもなかった。
ラチのあかない英文は担任に質問した。それでも納得がいかないときは、職員室に行き、ほかの英語教師に同じ質問をぶつけた。教師にとっては嫌な存在だったに違いない。教師をぎゃふんと言わせたいという幼稚な反抗心があったかもしれない。
しかるべき質問をするには能力がいる。未熟であってもほんの少し背伸びをすることも成長には必要である。英語の校内順位は1ケタ代で、まんざらでもなかった。
英語の勉強は、いまはマークシート対策が主流になっている。学生は、内容の薄い問題を短時間で大量に解かされている。薄っぺらな知識はどこまでも薄っぺらである。そんな問題をいくら解いても、奥深い知識は生まれない。教養が育まれることもない。豊かな人生を送るのに寄与することもない。
●例文の暗記
『新々』 には、総数204個の暗記用の例文が載っている。これを暗記するように、教師からは言われていた。
暗記とは、何も見ずに暗唱できることだと解釈していた。英文も見ない。日本語も見ない。204個の例文が、順番どおりに、そらで口から出るようになることが暗記だと考えていた。暗記を、どこまでも愚直にとらえていた。
当然、かなりの回数をくり返さなければ、そんな芸当はできない。ゆうに数百回を超える回数を音読に充てた。そらで言おうとして、いちばん苦労したのは順番だった。後に続くセンテンスが思い出せないときは、ゲームオーバーで、そのたびに最初からやり直した。
例文を暗記するのに順番などどうでもいいことが、当時の頭では気づかなかった。つまずいたらオール・クリアーでゼロに戻るは、修行僧の苦行のようだった。
しかし、そのおかげで音読の習慣が身についた。英文を2、3度読んで、「覚えられない」という生徒がいたら、「そうですか」 としか返す言葉がない。英文を覚えるとは、私のなかでは数百回のくり返しを意味するからだ。
覚えるのが難しいといわれている『700選』は、1日1回、すべての文を通しで暗唱することを日課にしていた時期がある。全部で550回音読した。1日1回でも365日かかるから、何年も要した。中3のテキスト『Sunshine 3』(開隆堂2012年版)は、2年がかりで1,150回音読した。アナウンサーの滑舌訓練の定番である『ういろう売りのセリフ』は、1日1回以上唱えるのを10年以上続けて数千回くり返した。
『英標』は全220篇を、20年以上の年月をかけて320回音読した。おそらく日本で最高記録ではないかと自負している。どんなニッチな分野であれ、日本一は強烈な自己肯定感につながる。
そして、自己肯定感こそ語学習得のカギを握る。語学習得は、忘れては覚え、覚えては忘れのくり返しだからだ。忘れるたびに、自分を否定しヘコんでいては前に進まない。どんなドジな自分であれ、それを丸抱えで認めるところからしか始まらない。語学習得の力は、人生を生き抜く力に他ならない。
●名言の数々
フロイド・メイウエザー・ジュニアという米国のプロボクサーがいた。50戦50勝で、史上初めて、無敗のまま5階級を制覇して引退した。
フロイド・メイウエザー・ジュニアの名言
・お前らが休んでいるとき、俺は練習している。お前らが寝ているとき、俺は練習している。お前らが練習しているときは、もちろん俺も練習している
・俺は自分のスキルを信じている、自分の才能を信じている。もし誰もフロイド・メイウェザーを信じないなら、俺が自分自身を信じる。
・俺を倒す方法なんてない。
・泣くな、不満を言うな、ただ努力するんだ。
・俺はいつだってネガティブなことをポジティブに変えようと努力している。
・自分にできることは日々、より良い人間になっていくことだ。
野村克也の名言
・誰にも負けないくらいの素振りをした。
・素振りをしていると、盛り場に繰り出す先輩たちが、「おい、野村、この世界は才能だ。バット振って一流になれるなら、みんなやってるさ」とからかう。私はそうは思わなかった。才能がすべてなら、こっちはとっくにお払い箱だ。だから、努力を信じてやるしかなかった。
・若いときに流さなかった汗は、年をとったときの涙となる。
王貞治の名言
・努力は必ず報われる。もし報われない努力があるのなら、それは努力と呼べない。
・いままでの僕の記録はみんな、耐えることで作られてきた。
・最高のものを求める強い気持ちがないと、結果は出ない。
福沢諭吉の名言
・進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む。
・やってもみないで、「事の成否」を疑うな。
・努力は、「天命」さえも変える。
・人に貴賎はないが、勉強したか、しないかの差は大きい。
・世の中でいちばん楽しく立派なことは、一生涯を貫く仕事をもつことである。
2022年8月28日