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『700選』の暗記は「完璧主義」を捨てる ― 音読のすすめ(18)

 『700選』を4ヶ月かけてほぼ完璧に暗記した。『700選』をこれから暗記しようとする人に参考になりそうな点を挙げておこう。

 1. ゆっくり覚えようとするから覚えられない。一気に覚えると覚えられる。

 2. 完璧主義をやめる勇気を持つ。完璧を目指さなければ完璧に近づく。

 3. すきま時間の利用。こま切れの時間を徹底的に活用する。

 4. 『700選』を暗唱すると「文法力」+「構文力」+「瞬発力」が総合的に身につく。

●ゆっくりやるから覚えられない

 『700選』に載っている英文はむずかしい。むずかしいから、コツコツ覚えようとする。1日に5例文ずつなら140日で覚えられると考える。だれしも、ゆっくりなら楽に覚えられると錯覚する。だが、これは上手くいかない。

 かりに、4ヶ月かけて一通り覚えていったとする。700番まで到達して、再び1番に戻ると、1番のセンテンスのことはすっかり忘れている。4ヶ月前に覚えた例文のことなど、だれだって覚えていない。2巡目も、3巡目も同じことが起こる。

 こんな気持ちになることもある。500番目を覚えていて、急に100番目が気になりだし、確認してみると、覚えたはずの例文がまったく口から出てこない。「自分は何をやっているんだろう」「こんなことをやってもムダではないだろうか」

 4ヶ月かけて1巡していると、常に「振り出しに戻る」を経験をする。せっかく覚えたはずなのに、4ヶ月もたてば、頭のなかはきれいさっぱりリセットされる。再び白紙状態から覚え直すことになる。

 ゆっくりだと攻略できそうに思えるが、実際は、ゆっくりの方がストレスが大きい。何度も覚え直しの苦痛を味わうことになる。そのうち『700選』がうらめしく思えてきたり、自分の能力を嘆くようになる。

●5例文を10回くり返す

 切りがいい数字なので、10例文や20例文をひとかたまりにして覚えようとする人は多い。だが、10や20は量が多すぎる。20では負荷がかかりすぎて、最初の20で力尽きてしまう。気持ちを奮い立たせないと、次の20に挑もうという気は起きない。こんなガンバリが、延々と700まで続く人はまれだろう。5でちょうどいい。

 『700選』の最後の5つは、こんな例文になっている。

696. I go to see my friend in the hospital every other day.
   私は入院中の友人を1日おきに見舞いに行きます。

697. The thermometer stood at three degrees below zero this morning.
   今朝は零下3度だった。

698. Nikko is situated about seventy five miles north of Tokyo.
   日光は東京の北約75マイルの地点にある。

699. The population of that country is about three-fourths of that of Japan.
   その国の人口は日本の約4分の3です。

700. Meiji was beaten by Keio by a [the] score of three to five.
   明治は5対3のスコアで慶応に敗れた。

 この5つの例文を読むのに30秒かかるとする。これを10回くり返すと300秒だから5分。このペースで一気に700番 まで音読する。何番はむずかしく、何番は簡単か、『700選』の全体像が大まかに把握できる。『700選』を10回音読するのに要する時間は700分(700÷5×5分)。わずか5例文ずつだからストレスはない。

 音読はくり返せばくり返すほど身体になじんでくる。回数が多ければ多いほど、英作が楽になり、暗記のためのウォーミングアップになる。ウォーミングアップなしで暗記に挑むのは、準備運動なしで水に飛び込むようなもの。口や手足はいきなり自由には動かない。

 50回の音読をやってから、『700選』の暗記に取り組んでいる高2の塾生がいる。じゅうぶん理にかなっている。トラブルもなく、順調に進んでいると聞いている。

●昨日のことなら思い出せる

 1日5例文では1巡するのに140日かかる。1日100例文だと1週間で1巡できる。時間を空けないで、ガムシャラにくり返し、一気に攻略した方が記憶に定着する。

 私自身は、数回の音読のあと暗記に取り組み、120回くり返して、ほぼ完全に暗記できた。要した日数は120日。

 具体的には、5例文を1単位として10回くり返し、そのかたちで、毎日60から80例文を暗記していった。平均すると 1日で1巡したペースになる。

 140日前のことは忘れても、1日前のことなら覚えている。140日で1巡と、1日で1巡とでは、記憶の鮮度が違う。

●完璧主義をやめる

 きちんと理解していない英文を音読したり暗記することに抵抗があっても、細かいことは気にせずに、こんな英文もあるんだと割り切って、どんどん先に進むといい。

 「なんでこんな意味になるんだろう」「どういう構造になっているんだろう」と、文法や文構造が気になりだし、どうしても解明したくなったら、そのときはじめて、辞書や参考書で調べればいい。最初から細部にこだわっていては前に進まない。そのうち、行き詰まって途中で投げ出すことになる。『700選』の攻略には、「完璧さを手放す勇気」がいる。

 数十回の音読のあとであっても、暗記しようとしたとたん、間違えたり、つまずいたりする。あれだけ音読したのにと嘆いても始まらない。「間違うのは当たり前」「平坦な道でなくて当然」と考えた方がいい。何の障害もなく、思い通りにことが運ぶと考える方がおかしい。逆に、簡単に習得できるような教材なら、わざわざ取り組む必要はない。

 少々間違えても目をつむり、何度ミスしても気にしない。回数を重ねることだけを目標に、しつこくくり返していると、いつのまにか完璧に近づく。

 これは「うるし塗り」の工程に似ている。塗っては乾かし、塗っては乾かしを何度もくり返す。何度もくり返しているうちに、塗りムラはなくなり完成に近づく。「小さな製品でも仕上げるのに短くて1ヶ月。納得がいかなくて塗り直すこともたびたびある」と、うるし塗り職人は言う。

 振り返ってみて、暗記に挑み始めて2、30回目あたりがいちばん苦しい。5、60回を超えたあたりからミスは一気に減ってくる。100回を超えると限りなくノーミスに近づく。冠詞の有無や、theなのかaなのか、単数か複数かにいたるまで、ほぼ完璧に復元できるようになる。こうなると、ミスを犯すか犯さないか、ゲーム感覚で暗唱が楽しめるようになる。

 長くて複雑に思えた英文が、口からスラスラ流れ出すと、感動すら覚える。嫌悪感をもよおすほど難解に思えた英文が、「お気に入り」へと変身する。こんな能力が自分にはあったのかと、自己の能力に目覚め、生きることへの自信にまでつながってくる。

 ホップ、ステップ、ジャンプの三段跳びにたとえれば、最初の2、30回目はホップで、離陸する段階。とにかく離陸しないことには何も始まらない。5、60回目はステップで、夢中になってガムシャラに取り組む段階。委細かまわず前進あるのみ。100回目以降はジャンプで、着地点を探りながら距離を伸ばす段階。ストレスを感じることなく、スピードに乗ってどんどん回数を重ねていくことができる。 

●「例文シート」の作成

 だれだって忙しい。『700選』の暗記に挑むには、あらたに時間を捻出する必要がある。

 私は、日課の散歩を活用している。家から10分のところに公園がある。小高い丘の上にあり、町が一望できる。400メートル走のトラックがとれるほどグランドは広い。ここをグルグル回りながら、『700選』を暗唱している。早朝で、だれもいないので人目を気にすることはない。歩くことと暗記は相性がいい。1時間の散歩で40から60の例文を暗唱している。

 本を手にしての暗記は、わずらわしいので、暗記用の「例文シート」を作成した。B6サイズの用紙(128×182ミリ)に、20の例文をワープロで書き写す。文字サイズはかなり小さくなるが、歩きながらでも十分読める。この「例文シート」は、紙なので何度も使っているとすぐにボロボロになる。

 そこで「例文シート」を、透明なビニール袋に入れるようにした。ビニール袋は百円ショップで手に入る。Plastic Zipper Bag(100×140ミリ)の名で、45枚入りが100円。チャックがついているので、「例文シート」は完全防水仕様で、耐久性抜群のグッズにさまがわりする。

 例文が書かれたB6の用紙を2つ折りにして、ビニール袋に入れるとピッタリ収まる。両面に10例文ずつが載った特製の「例文シート」ができあがる。数えやすいように5例文ごとに仕切り線を入れてある。この「例文シート」は、700例文÷20例文で、計35枚になる。

●「カウンタ-」は必需品

 指を折って回数を数えるのはわずらわしい。カウンター(数取器)を使って数えている。カウンターも、百円ショップで100円で手に入る。ちゃんとした製品がこんな値段で手に入るとは。

 暗記するのに、カウンターは欠かせない。1枚の「例文シート」には、ウラ表で10例文ずつ、計20例文が載っている。片面の10例文のうちの5例文を10回くり返し暗唱する。カウンターは、このときの数を数えるのに使う。

 和文を見て例文を暗唱していく。慣れてくると、5例文を1巡するのに10数秒とかからない。1巡するごとに、右手に持ったカウンターのボタンをカチッと押す。左手に持った「例文シート」をチラッと見るだけで、例文が即座に口から出てくるようになる。チラッが5回で、カチッが1回。どんどん加速していき、あっという間にカウンターは10に達する。

 何度もくり返すが、このときに後ろを振り返ってはいけない。完璧にやろうとすると失敗する。ひたすら「今」に集中し、前に進むことだけを考える。そうすれば『700選』は必ず覚えられる。

●すきま時間の活用

 「例文シート」とカウンターのおかげで、すきま時間を徹底的に活用することができる。外出のときは、2、3枚の「例文シート」とカウンターを必ず持って出るようにしている。

 電車の中や、プラットホームでの待ち時間。家人の買い物につきあって、待たされている時間。医者にかかったときは、名前が呼ばれるまでの待ち時間。飲食店や銀行での待ち時間。これらの待ち時間は、イライラせずにすむだけでなく、貴重な暗唱時間になる。

 信号待ちや、商店街を歩いているときも、ポケットから「例文シート」を取り出すことがある。家の中なら、入浴中の湯船で。「例文シート」は防水加工なので濡れても心配ない。テレビのCMタイムも利用できる。
 
 これらのすきま時間と朝の散歩を利用すると、1日で60から80例文を暗唱できる。机に向かって暗唱することはほとんどない。

●英作文は、「文法力」+「構文力」

 『700選』に次のような例文が載っている。

 「君はあのテレビ塔の高さがどれくらいあるか知っていますか」(661)
 
 この和文は次の和文と連動している。この例文も含めてシンプルな順に並べてみよう。

 ①あのテレビ塔はとても高い。
 ②あのテレビ塔はどれくらいの高さですか。 
 ③君はあのテレビ塔の高さがどれくらいあるか知っていますか。
 ④君はあのテレビ塔の高さはどれくらいだと思いますか。
 
 実際に、口頭で英作してみて欲しい。①②はクリアできても、③④は、しんどいのではないだろうか。特に④は、トップレベルの高校生でも、瞬時に組み立てるのはむずかしい。

 ①②は中学生レベル。③④になると英文法に基づいて、構造的に英文を組み立てていく能力がいる。④について「どのような文法操作」が頭の中で行われるかを簡単にみておこう。

 ④は、I think the television tower is 100 meters high.という英文が元にある。文法操作を計算的に行い、この文を変形していく。「100 meters high」が答えになるには、使用する疑問詞は「how high」。「how high」は疑問詞だから、文頭へと移動する。疑問詞の移動は、倒置を生む。相手への問いかけだから、「I think 」は「do you think」へと変形される。こうした複雑な変形操作を行ってはじめて次の英文ができあがる。

 ④How high do you think the television tower is?

●英会話は、「文法力」+「構文力」+「瞬発力」

 これが英作文なら時間がかかっても差し支えない。だが、英会話では、これに「瞬発力」が加わる。文法操作と構文の組み立てを、「瞬時」に行わなければならない。

 こんなことを想像してみてはどうだろう。英会話学校のフリー・トークで、先に挙げた『700選』の例文がランダムに飛び交っているとする。

 ・「私は入院中の友人を1日おきに見舞いに行きます」
 ・「今朝は零下3度だった」
 ・「日光は東京の北約75マイルの地点にある」
 ・「その国の人口は日本の約4分の3です」
 ・「明治は5対3のスコアで慶応に敗れた」

 「あー」「うー」と、しどろもどろになりながらも、なんとか英文が口から出てくれば、「文法力」と「構文力」は、かろうじて身についている。欠けているのは、「瞬発力」ということになる。もし、ひと言も発することができないなら、「文法力」と「構文力」を身につけろということになる。

 『700選』の暗記は、この「文法力」+「構文力」+「瞬発力」を総合的に身につけるのに絶好の訓練になる。英語がしゃべれるようになるには、意識的にアウトプットの反復訓練を積む以外に方法はない。おそらく数百回単位になるだろう。『700選』の暗記に悪戦苦闘した人なら、「聞き流すだけで英語がしゃべれるようになる」は、夢物語にしか聞こえないだろう。

 ― もしあなたが、山里に住んでいて、朝から晩まで小鳥のさえずりを聞いているとする。10年、20年、30年とそこに暮らしていると、ある日突然、小鳥のようにさえずるようになるというのだろうか ―

 外国語の習得に楽な道はない。 

2016年03月14日

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