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「英文和訳」を見れば実力がわかる  

●文構造の取り違え

 地元の県立高校の校内模試(高2生対象)にこんな問題が載っていた。解答訳は、それらしい訳になっているが、あきらかに文構造を取り違えている。

 次の英文の下線部(赤)を日本語に直せ。
 
 Due to the recent development of technology, it was found that stimulation at a point in the back of the brain can elicit sensations of light flashed, while stimulation at the proper spot on the side of the brain can cause the patient to hear tones.

 This observation leads to a surprising conclusion: that the critical difference between hearing and seeing depends not so much on differences between the eyes and ears, but on where in the brain the eyes and ears send their messages.

【解答訳】聞くことと見ることの決定的な違いは、目と耳の違いに依存しているというよりは、むしろ目や耳が、メッセージを送る脳の「部位」によって決まるものである。

 この英文と解答訳を検証してみよう。 

 「not so much A as B」という構文がある。受験生ならだれでも知っている。

 He is not so much a scholar as a writer.「彼は学者というよりもむしろ作家だ」

 解答訳は、問題文を「not so much A as B」の構文として訳しているが、よく読みさえすれば、そうではないことにすぐに気づく。①「not so much A as B」と、②「問題文」を簡略化して並べてみよう。

 ①S depends not so much on A as on B.
 ②S depends not so much on A, but on B.

 ①と②では、後半部の「as」と「but」が違うだけだが、文構造はまるで異なる。

 ①の訳は:SはAというよりはむしろBに依存している。
 ②の訳は:SはAにはそれほど依存していなくて、Bに依存している。
 
 ①は誤りで、②が正しい。

 ②におけるso much は、「それほど」という意味の修飾語として挿入されているにすぎない。S depends not (so much) on A, but on B.

 It is not so cool here. 「ここはあまり涼しくない」
 She is not so old.「彼女はそれほど歳をとってはいない」

●生徒のアタマのなか

 この問題文を読むときの生徒のアタマの中はどうなっているのか。

 <やったー、not so much A as Bだ。これなら楽勝だ>

 英文をフィーリングで読んでいる生徒は、英文にろくに目をとおさない。後半は、「but B」であって、「as B」ではない。英語ができない生徒は、自分に都合のいいように読む。

 ― We see subjectively, not objectively; what we are capable of seeing, not what there is to be seen.(『英文標準問題精講』練習問題【7】)「われわれは主観的にものをながめ、客観的にはながめない。見ることのできるものだけをながめ、見なければならないものは見ない」―

 すこしマシな生徒はこう考える。

 <not so much A as Bだと思ったが、少し違う。後半は、「but~」になっている。自分が知らないだけで、こういう表現もあるのだろう。butの前には「,」もあるが、ささいなことだから無視しよう。「as B」が、なにかの事情で、「but B」になったものに違いない>

●生徒は混乱する

【解答訳】は、「not A but B」を「not so much A as B」に取り違えているほかにも、次の点が気になる。

 『……はメッセージを送る脳の「部位」によって決まるものである』で、「 」付きで「部位」と訳している箇所がある。なぜわざわざ「 」を付けたのだろうか。

 whereは関係副詞で、先行詞the placeが省略されている、と考えれば、「the place where」を「部位」と訳すことは可能。しかし、高2生対象の「模範解答」としては配慮に欠ける。「部位」という「 」付きの訳にとまどう高校生は多いだろう。

 以下の拙訳では、whereは疑問詞として訳してある。「関係副詞」whereと「疑問詞」whereは、一般に互換性がある。

 【拙訳】聞くことと見ることの決定的な違いは、目と耳の違いにはあまり依存していなくて、目や耳が脳のどこへメッセージを送るかによる。

 ※『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)には、not so much A as Bで、as Bの代わりにbut Bを用いることがある、という記述がある。しかし、一般論ではなく例外扱いになっている。

 「not A, but B」は、あくまで「AではなくてB」と訳すのが筋であり、例外的に許容されるからといって、「not A but B」を「not so much A as B」に換えて訳したのでは、生徒は混乱し、理解に苦しむだろう。

●「英文和訳」と「和文英訳」を見れば実力がわかる

 センター試験や多くの私立大学の問題、あるいはTOEICなどは、マークシート方式で答えを選択するようになっている。こうした試験では、英文をていねいに分析的に読むよりも、速く読んだ方が得点しやすくなっている。その結果、受験生は速く読もうと、「ななめ読み」や「とばし読み」や「拾い読み」をする。こうした粗雑な読み方をするのは生徒にとどまらず、教師にまでも広がっている。

 マークシート方式で番号が合ったからといって、英文が読めていることにはならない。英語の実力は、「英文和訳」と「和文英訳」を見ればはっきりわかる。「英会話能力」も、つきつめれば、「作文能力」にほかならない。頭のなかで瞬時に「英作」を行い、それを即座に口から出せば、「英語をしゃべっている」ことになる。

 外務省の専門職員採用試験は、外国語和訳(2題)と和文外国語訳(2題)のみ。試験時間は2時間。「正確に読めること」と「正確に書けること」が求められている。プロの外交官になるための語学試験はいたってシンプルで、その趣旨は明確ではっきりしている。

●英語力と日本外交の停滞

 佐藤優氏(元外務省主任分析官)も、「和文外国語訳」と「外国語和訳」は、語学の能力が最もよく分かる方法だと語っている。(週刊現代・2016年6月4日号)

 ― まずは今の英語力を測るためにも、英検2級を受けてみる。これはだいたい、高校2年生と同じくらいのレベルです。歯が立たないようならば、3級に戻るといいでしょう。

 英検の関連教材はすごくよくできていますから、それを使って勉強するのがおすすめです。英検準1級に合格できれば、TOEFL換算でだいたいスコア100になります。これは外務省が入省時に「即戦力になる」と判断する基準と同じです。

 現在の外交官のうち、何割がこの基準をクリアしていると思いますか? 実は、わずか3割だそうです。私が外務省に入った頃は、専門職を含め、TOEFLスコア100は全員が持っていたのですが。

 ちなみに、昔の外務省の入省試験は、「和文外国語訳」と「外国語和訳」しかありませんでした。これは明治時代からずっと変わっていなくて、採点者さえしっかりしていれば、語学の能力が最もよく分かる方法です。しかし現在では、この試験は専門職職員にしか課されていません。現在の日本外交の停滞は、外務省職員の英語力低下とも関係していると思います。―

2016年07月05日

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