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「失敗したくない」は失敗を招く ― 音読のすすめ(16)



●校内の弁論発表会

 市内で行われた「英語のスピーチコンテスト」に出たA子さん(中2)は、校内の「弁論発表会」でもスピーチすることになった。演題は、コンテストのときと同じ「3匹の子ぶた」(Three Little Pigs)。

 中学校の体育館は、生徒たちがめいめいパイプ椅子を運び込み、講堂に様変わりしている。窓には黒いカーテンが引かれ、会場は薄暗い。正面に設置された演台らしき場所だけがライトに照らされている。聴衆は、全校生、教員、参観の父兄を合わせると約400人。コンテストのときよりも会場は広いし、聴衆もはるかに多い。騒々しいわけではないが、ザワザワしている。そんな中、A子さんのスピーチは始まった。

 マイク越しに、「ワンス・アポン・ア・タイム……」と、自信に満ちた声がよく響く。順調に滑り出したかに思えたが、いきなり次の言葉が出てこない。

 先のスピーチコンテストのときは、最後のフレーズに詰まって、頭の中が真っ白になったそうだ。あのときの再現かと思いきや、今度は落ち着いていた。制服のポケットからゆっくりとメモ用紙を取り出し、それを読み上げた。1、2行分の英文を読んだだけで、そのあとは完全に自分のペースを取り戻していた。メモ用紙は、担任のアドバイスで、万が一に備えていたものだったが、もう必要なかった。

 出だしでつまずいただけで、残りのスピーチは堂々としていた。余裕からくるA子さんのジェスチャーには目を奪われた。「ザ・ファースト・ピッグ……」としゃべりながら、十分に間を取り、人差し指を立て、400人の聴衆を見渡すように、視線を端から端へと投げかけた。オオカミが子ぶたの家を訪れるくだりでは、こぶしでドアをノックする仕草をして臨場感を演出した。

 「声」だけでなく、「目」を使い、「手」を使い、身体全体でストーリーを盛り上げ、まるでプレゼンのお手本のようなスピーチだった。A子さんに、だれかの指導を受けたのかと聞くと、そうではなかった。先に出場したスピーチコンテストでの経験から学んだという。上手な生徒は、身ぶり手ぶりをまじえ、視線に気を配り、声色まで使っていて、それをまねたのだそうだ。

●計756回の音読

 担任の先生から、「弁論発表会」に出るように言われたとき、A子さんはこう思ったという。

 《コンテストでは、あともう少しのところでつまづいた。あのときは市内の中学から選りすぐりの生徒が集まっていて、緊張した。こんどは違う。会場はふだん使っている学校の体育館。同級生もいるし、部活の友だちもいる。審査員によって採点されるわけではない。でも失敗はしたくない。だからもっともっと練習しておかなくては》

 先のコンテストの準備で、A子さんは「3匹の子ぶた」を491回読んでいた。今度の発表会に向け、さらにその原稿を読み続け、計756回読んだという。3分のスピーチ原稿は、読むだけでも2,268分、時間にすると約38時間になる。

 756回も音読すると、いったい何が起こるのか。A子さんの話―― 《ひとりでいる時は、歩いていても、自転車をこいでいても、お風呂に入っていても、自分の意志とは関係なく、「3匹の子ぶた」が勝手に頭の中を流れていた》

●「失敗したくない」は「失敗」を生む

 無意識に英文が流れ出てくるのだから、「覚える」という意味では、ほぼ完璧な状態になっていたはず。それでも本番ではミスを犯した。なぜだろう。

 A子さんは、失敗をしたくないがために、これでもかというほど音読をくり返した。しかし、「失敗したくない」は、意識の底に「失敗するかもしれない」が横たわっている。「失敗したくない」は「失敗するかもしれない」という不安からくる。「失敗したくないから」という理由で練習すると、それは、「失敗するかもしれない」という不安の強化につながる。

 F1のドライバーは、平均時速200kmという超高速で走るマシンを操っている。「壁に激突しないように」は、激突の危険をはらむ。だからそうは考えない。極限の集中力とは、「心地よいリラックス」だという。

 「失敗しないように」と願うことも、「きっと上手くいく」とポジティブに自分に言い聞かせることも、どちらも不安の裏返しに過ぎない。考えるべきことは、「どうやったら効果的に伝わるか」であって、「どうしたら失敗しないか」ではない。プレゼンの本には、「相手軸」で考え、「自分軸」で考えるのではない、とある。

 「上手くなってやろう」とか、「暗記してやろう」などとは考えずに、おおらかな気持ちで淡々と音読するのがいい。

2015年12月18日

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