勝浦英語塾では、英語指導歴30年のエキスパートが、大学受験英語を通して、30年後にも通じる、生き方と在り方とその方向性を伝えています。 

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「しゃべれなくても読み書きはできる」という思い込み


●座席のないクルマ

 「しゃべれなくても読み書きはできる」は、何とよく耳にする言葉だろうか。言葉は、確かな検証もないまま何となくくり返されているうちに、あたかも真実であるかのようにひとり歩きする。「しゃべれない」はその通りでも、「読んだり書いたりができる」はかなり疑わしい。

 There was no seat in the car, so he kept standing.を、「クルマには座席がなかったので彼は立ち続けていた」と訳した生徒がいた。「座席のないクルマとはどんなクルマか」と、ツッコミを入れたくなる。

 carには(列車の車両)の意味があり、dining car(食堂車)やsleeping car(寝台車)の例が辞書には載っている。正しくは、「列車には席がなかったので彼は立ち続けていた」。

 It is only human not to be able to do mathematics.を、「数学ができないのは人間だけである」と訳すのはおかしい。数学はサルにだってできない。

 humanは名詞(人間)ではなく、形容詞(人間らしい)の意味。正しくは「数学ができないのは単に人間らしいことである」。

 a report that he stoleは2通りに訳せる。

 ①彼が盗みを働いたという報告
 ②彼が盗んだ報告書

 ①のthatは同格節を導く接続詞 
 ②のthatは目的格の関係代名詞

 接続詞thatと関係代名詞thatの違いがわかっていなければ、①と②を区別して訳すことはできない。辞書を引いても解決はしない。理解には文法力がいる。その文法の習得には忍耐力と思考力がいる。

●saveは「を救う」ではない

None can know the benefit of the lights of the lighthouses save those who have neared their country's coast in a season of starless nights and wintry gales.(立命館大学)

 この英文で典型的な誤訳を示してみよう。

①None can know / ②the benefit of the lights of the lighthouses / ③save / ④those who have neared their country's coast / ⑤in a season of starless nights and wintry gales.

①None can know(誰も知ることはできない)
②the benefit of the lights of the lighthouses(灯台の光の恩恵)
③save(を救う)
④those who have neared their country's coast (母国の海岸に近づいた人々)
⑤in a season of starless nights and wintry gales.(星のない夜や大風が吹く季節に)

 【誤】灯台の光の恩恵が、星のない夜や大風が吹く季節に母国の海岸に近づいた人々を救うのを誰も知ることはできない。

 ぼんやり読んでいると正しく聞こえるかもしれないが、きちんと読めばヘンだと気づく。「灯台の光」が人を救うことはあっても、「光の恩恵」は人を救ったりはしない。

 the benefitがsaveの主語なら、saveには三単現のsがつき、savesとなる。誤訳の元になっているsaveは、動詞(を救う)ではなく、前置詞(~を除いて)。All the guests had left save one.(1人を除いて客はみんな帰った)

 問題文の構造は:
  
 None can know [A save B].ではなく、
 None (save B) can know A. (Bを除くNoneがAを知ることができる)

 【正】星のない夜や大風が吹く季節に母国の海岸に近づいたことのある人々だけが、灯台の光のありがたさがわかる。

●和製英語は危険がいっぱい

 「書く」方はどうだろう。国際化とともに和製英語は増え続けていく。和製英語はカタカナ表記だから、そのままで通じると思ってしまいがちだが、「フリーダイヤル」は、toll-free。「レントゲン」はX-ray。「ナイター」はnight game。シュークリームは(靴墨)であって、英語ではcream puff。カタカナ語を英語で言うときは、すべて疑ってかかったほうがいい。

 「ゲームセンター」はarcadeだと最近知った。辞書には、 a place where you can play games on machines which you use coins to operateとある。『Oxford Advanced Learner's Dictionary』から引いたものだが、この辞書はイチ押しの英英辞典。Advanced Learner's(上級者用の)とあっても、高校生でも十分に使いこなせる。

 「優先席」は、バスや電車、JRでもpiority seatと訳されている。『新和英大辞典』(研究社)にもそうある。すっかり市民権を得た感があるが、個人的には違和感を感じている。そんな折り、東京ディズニーランドで、「優先席」をcourtesy seat と訳しているのが目に止まり、はじめて納得がいった。

 先の英英辞典には、courtesyは、polite behavior that shows respect for other peopleとある。訳すと「他人に対して配慮を示す思いやりのある行為」。したがって、courtesy seat は「思いやり席」「気くばり席」となる。こちらの方が「優先席」よりよほどしっくりくる。

 観光立国をめざすのなら、英語表記はpriority seatからcourtesy seatに、日本語表記の方も「優先席」から「思いやり席」に、今からでも変えていってはどうだろう。

●日・英では発想が違う

 「危険ですから、走らないでください」は、"It's dangerous. Please don't run."ではない。東京ディズーニーランドでは、"For your safety, please walk."とあった。「走るな」と「歩け」では、発想がまるで違う

 JRでは、「かけ込み乗車はおやめください」は、"For your safety do not rush for your train."となっている。

 「遊泳禁止」は、英語表記では、"Swim at your own risk"となる。「遊泳禁止」を"Swimming is prohibited here"と表示したのでは、事故が起こったら、掲示板を掲げた当局の責任が問われかねない。「禁止」と「泳ぎなさい」で、発想はここでも逆になっている。

 外資系のホテル、リッツ・カールトンの浴場では、「ご入浴まえには、かけ湯をお願い申し上げます」の下に、"As a courtesy to others, please rinse yourself prior to using bath." とあった。

 入試の英作文問題で、単語を置き換えたら、それで英文になると考えていると、いたるところでつまずくことになる。

 「科学技術の発達とともに地球はますます小さくなる」(聖心女子大学)で、"The earth is getting smaller."は誤り。earthは、惑星の「地球」であって、小さくはならない。正しくは、"The world is getting smaller."

 「腹を割って話そうではないか」(早稲田大学)は、"Let's talk with our stomach open."
ではなく、Let's talk frankly (openly).
 
 「彼女は顔が広い」は、"She has a wide face."ではなく、"She has a lot of friends."
 「後の祭り」は、"After the festival"ではなく、"It's too late."
 「ボクはうどんだ」(飲食店で)は、"I am Udon noodles."ではなく、"I'll have Udon noodles."
 「百点満点」は、"It's perfect."、あるいは、"It leaves nothing to be desired."

●作文力と読解力は連動している

 ヘミング・ウェイの"The Old Man and The Sea"の一節を、授業で取りあげたことがある。次の"he waited for it to be light."の部分を誰も訳せなかった。

 He'll stay with me too, I suppose, the old man thought and he waited for it to be light. It
was cold now in the time before the daylight.

 「やつもおれにつきあう気だ、そうにちがいない、と老人は思う。彼は明け方を待ちこがれていた。夜明け前のいま時分が一番寒い」(『老人と海』新潮文庫・福田恆存訳)

 この文が訳せない原因は、文型の理解にある。次の文の文型はどれも同じSVOC。OとCの関係は、常に「主語」と「述語」の関係になっている。

 ①He calls me John.
 ②He wants me to go there.
 ③He waited for it to be light.

 OCの部分を、「主語」「述語」の関係として抽出すると:

 ①I am John.
 ②I go there.
 ③It is light. (Itは天候・明暗のIt、「それ」とは訳さない。lightは「軽い」ではなく「明るい」)

 SVOCがわかっていないと、次の英作文の問題とその解答も理解できない。

 「私が雨やどりしていると、彼は親切にも車に乗せてくれた」『新・基本英文700選』(98)(駿台文庫)

 「雨やどり」は、和英辞典ではtake shelter from rainとある。しかし、こんなカジュアルな文脈にtake shelter はなじまない。

 「雨やどり」は、①雨が止むまで待つ、②雨が止むのを待つ、と訳し変えることができる。①なら、wait till the rain stops、②なら、wait for the rain to stop、となる。書き方は②の方が難しい。

 『700選』の解答は:While I was waiting for the rain to stop, he kindly gave me a ride.

●英語の習得に楽な道などない

 「聞き流すだけで英語が聞き取れるようになる」「○週間で英会話ができる」「○ヶ月で英語をマスター」といったタイトルの本が、これでもかというほど出版され続ける。もし、3週間や、3ヶ月で英語が習得できる魔法のメソッドがあるのなら、英語学習に苦しむ人は、たちどころに世の中からいなくなるだろう。何かを習得するのに楽な道などない。簡単に身についたものは、簡単に使いものにならなくなる。

 「苦しんだり楽しんだりして、修行を重ね錬磨して作りだした幸福であってこそ、その幸福は永続する。また、疑ったり信じたりして、苦心を重ね考えぬいた知識であってこそ、その知識は本物になる」『菜根譚』(74)(岩波文庫)

 英語の習得にまともに取り組んだことのある人の口からは、「しゃべれなくても読み書きはできる」は出てこない。

2015年11月15日

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