勝浦英語塾では、英語指導歴30年のエキスパートが、大学受験英語を通して、30年後にも通じる、生き方と在り方とその方向性を伝えています。 

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その日は必ずやってくる ― 音読のすすめ (12)          

●あと1日でダメになる

 ローマ・クラブの『成長の限界』に、こんななぞなぞが載っている。同書は、環境破壊と資源枯渇が引き起こす人類の危機に警鐘を鳴らしている。1970年代のベストセラーだが、半世紀たったいまも内容は色あせてない。

 「あなたは、池でスイレンを育てていたとする。そのスイレンは1日で2倍の量に増える。スイレンは増え続け、30日で池をおおいつくす。スイレンが池の半分をおおいつくすまで、あなたはそれを放置していたとする。スイレンが池をおおいつくすのに、あと何日かかるだろう? 答えはもちろん1日である。池を救うには、たった1日しか残されていない」

 なぞなぞの中のスイレンは幾何級数的に増えていく。音読によって、英語の能力が幾何級数的に伸びるかどうかはわからなくても、くり返すことで質が変化することは容易に理解できる。

●だれもが経験している

 小学校低学年の国語の教科書に『寿限無』が載っている。

 「じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ くうねるところにすむところ やぶらこうじのぶらこうじ ぱいぽ ぱいぽ ぱいぽのしゅーりんがん しゅーりんがんのぐーりんだい ぐーりんだいのぽんぽこぴーの ぽんぽこなーの ちょうきゅうめいのちょうすけ」

 テンポのよさと言葉の面白さで、子どもはすぐに覚えてしまう。大人でも、くり返し読んでいるちに、いつのまにか覚えてしまう。というか覚えるにはそれしか方法はない。『ういろう売りの台詞』で、私が体験したように2年近くかけて何百回も読まなくても、『寿限無』なら音読から暗記へと、量による質の転化を簡単に体験できる。(『量は質を転化する ― 音読のすすめ(11) 』
 
 ただ、あらためて体験などしなくても、かけ算の九九を覚えたときのことを思い起こせば、「くり返せば覚える」は、だれしも経験している。「門前の小僧(こぞう)習わぬ経(きよう)を読む」や「ちりも積もれば山となる」も、日々の生活から生まれた知恵だろう。「量質転化」が、日常に深く根ざした概念であることは洋の東西を問わない。

●似たことわざは多い

 「量質転化」に該当しそうな英語のことわざを拾ってみよう。

 ①A little leak will sink a great ship. 千丈の堤も蟻の一穴から
 ②Constant dripping wears away the stone. 点滴岩をもうがつ
 ③Habit is a second nature. 習慣は第二の天性

 ④He who shoots often, hits at last.  何度も射れば、最後には当たる
 ⑤If at first you don't succeed, try, try, try again. 一度でうまくいかなければ何度でもやれ

 ⑥Little and often fills the purse. 小銭でも何度も蓄えれば財布がいっぱいになる
 ⑦Little by little and bit by bit. こつこつ少しずつ 
 ⑧Little strokes fell great oaks. 小さな打撃も大きなカシの木を倒す

 ⑨Practice makes perfect. 習うより慣れろ

 ⑩Rome was not built in a day. ローマは一日にしてならず
 ⑪Slow and steady wins the race. ゆっくり着実にやれば必ず勝つ

 ⑫The last drop makes the cup run over. 最後の一滴がコップをあふれさせる
 ⑬The last straw breaks the camel's back. 最後の一本のワラがラクダの背中を折る

 ⑭The longest journey begins with a single step. もっとも長い旅も一歩から始まる
 ⑮Who repairs not his gutters repairs his whole house. 雨といを直さないと家全部を直すことになる

 このように、同様な意味をもつことわざは数多い。このことは、「量質転化」が日常のありきたりな現象でありながら、その実践がいかにむずかしいかを物語っている。古今東西の庶民が、ことわざという表現形式で、その教訓を日々の行動に落とし込もうとしてきたことの証だろう。

●わかっていても実行できない

 「ことわざというものは、それが真理であることを親しく体験しない限りは、つねに平凡なものである」(『英標』練習問題【99】―ALDOUS HUXLEY, Jesting Pirate

 オルダス・ハクスリーはいう。――どろぼうは捕まってはじめて、「正直は最善の策」だということをだれよりも強い確信を持って悟る。(中略)人はそれを確信したなら、自分の生活態度だけが合理的で正しいと信じていくのではなく、その確信をがまん強く実行に移していかなければならない――

 1日で2倍ずつ増えていくスイレンの話は環境破壊のすさまじさのたとえだが、「まだ半分」は「もう半分」ともいえる。スイレンは、まだ池の半分しかおおっていなくても、翌日には池をおおいつくす。たった1日で池はダメになる。能力が開花する話に置き換えれば、「今日」は低迷していても、「明日」にはダイナミックに様変わりすることを意味する。

●脳は「理解の仕方」を記憶する

 脳科学者の池谷裕二氏は、脳の特徴を次のように説明している。

 ――ある分野の「理解の仕方」を覚えると、ほかの分野での「理解の仕方」まで覚える。野球が上手い人はソフトボールの上達が早い。英語をマスターした人はフランス語の習得が早い。ある科目の一定部分を十分に理解すると、ほかの部分の理解も早くなる。

 脳は、記憶するときに、対象となるものごとを記憶するだけでなく、ものごとの「理解の仕方」も同時に記憶する。多くのことを記憶して使いこなされた脳は、さらに性能がアップする。

 今の成績を1とし、目標の成績を1000とする。勉強を始めると成績は2になり、努力を続ければ4になる。さらに8、16、32と累積効果を示して上昇していく。しかし、32では目標の1000には遠くおよばない。この時点で多くの人は深刻に悩む。「なぜ成績が上がらないのだろう?」「私には才能がないのかも?」 そしてたいていの人がこの時点で挫折する。

 辛抱強く勉強を続けていく人だけが、成績は64、128、256、512と上がっていく。ここまできて、やっと努力の成果が目に見えるようになる。あと一歩の努力で、成績は1024になり、目標の1000をクリアできる。勉強と成績の関係は「比例関係」ではなく「累乗関係」にある。

 大切なのは続けること。続けていれば必ず成果があらわれる。ある日、急に視界が開け、ものごとがよく理解できるようになったと感じるときがくる。ある種の「悟り」に似た境地になる。勉強がつらくなったら、勉強の成果があらわれるには、少なくても3ヶ月はかかるということを覚えておくといい。――(『脳の仕組みと科学的勉強法』

●簡単だからこそ実践はむずかしい

 劇的変化をもたらすその日は必ずやってくる。「最後の一滴がコップをあふれさせる」(The last drop makes the cup run over.)

 ことわざの実践はむずかしい。同じように音読の実践も簡単ではない。半端な気持ちでは挫折する。続けるには断固とした意志の力がいる。明るい未来を信じる力がいる。小さな一歩を認める大きな包容力がいる。道が遠ければ遠いほど、達成の喜びは大きい。

2015年09月27日

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