勝浦英語塾では、英語指導歴30年のエキスパートが、大学受験英語を通して、30年後にも通じる、生き方と在り方とその方向性を伝えています。 

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電子辞書は封印し「紙の辞書」に戻ろう          

●enoughの正確な意味など知らなくていい?

 『英標』例題15に、a person who already has enough to live on(食っていくだけの資力を十分に持っている人)という一節がある。

 これを読むのにわざわざ辞書を引く生徒はほとんどいない。確認のためにenoughの意味を聞いてみると、「十分な」とか「十分に」という答えが返ってくる。「訳文」を見ると、まさに「十分に」と訳されているからよけいに誤解を生む。

 enoughを、「形容詞(十分な)」や「副詞(十分に)」と解釈したのでは文構造のつじつまが合わない。enoughが「形容詞」なら修飾すべき「名詞」が存在するはずだし、「副詞」ならhas (enough) toで(十分にしなければならない)という意味になってしまう。

 enoughの品詞を考える場合、着目点は2点ある。1つはhasであり、もう1つはto live onである。まずhasに着目すると、hasは他動詞であり目的語が要求される。そうであればenoughは「名詞」の可能性が高い。

 こんどはto live on に着目してみると、次の文と同じ構造を持つ「不定詞の形容詞用法」であることがわかる。そこからenoughの品詞は「名詞」で、意味は(十分な数量)だと判断できる。

 He has (a house)(to live in.)(住む家)
 He has (a friend)(to play tennis with.)(いっしょにテニスをする友だち)
 He has (enough)(to live on.)(食っていくだけの資力)

 このように、enoughの意味は、文構造を分析し品詞を絞り込んではじめて特定される。逆にいえば文構造が理解できなければ、enoughの意味は特定できない。冒頭に述べた「確認のためにenoughの意味を聞いてみた」というのは、「文構造が理解できているかどうか」の確認に他ならない。

 国公立大で出題される「下線部を訳せ」という問題も、問われているのは文構造の理解であって、訳出の巧さや日本語の美しさなどに重点があるのではない。

●「スローだけれど正確」と「速いけれどずさん」

 英文を読むのに、いちいちこんな七面倒くさいことをやっているのかと聞かれれば、答えはイエスである。英語ができる生徒は文構造についてどんな突っ込んだ質問をされても答える。これ以外の読み方などありえないという確信をもって読んでいる。

 一方、英語ができない生徒の読み方は粗い。「英文にザーッと目を通し知らないスペルの単語を見つけ、その意味をページの余白に書く」。辞書を引くことは面倒な作業でしかないからできるだけ辞書など引かないですまそうとする。その結果、enoughは辞書で調べるべき対象外の単語としてスルーされる。

 かりにenoughを辞書で引いたとしても、1番目にある「形容詞(十分な)」をチェックするだけで、2番目の「名詞」の意味、3番目の「副詞」の意味に目を通すことはない。

 英文を読むのになぜこうも急ぐ必要があるのだろう。「時間が足りないから読めない」という生徒がいる。本当にそうだろうか。時間があれば読めるのだろうか。「単語がわからないから読めない」という生徒がいる。本当にそうだろうか。辞書があれば読めるのだろうか。

 速く読むために速く読むのではない。速く読むためにはゆっくり読まなければならない。正確に読むことから始めてスピードを上げていくことはできるが、速く読むことから始めて正確に読めるようにはならない。「スローだけれど正確」と「速いけれどずさん」。どちらの読み方をしたいのだろう。

●電子辞書は本当に速いのか 

 紙の辞書より電子辞書で引いた方が速いと思われているが、本当にそうだろうか。私は紙の辞書で引く方が速い。年に数回はドンピシャリでいきなり目的のページが開く。ドンピシャリでなくても誤差は数ページのことも多い。

 おそらく手の指がアルファベットの位置を覚えているのだろう。手の指の感度はかなり高い。目的の単語は辞書の「前半部分」にあるのか「後半部分」にあるのか、そして「後半部分」なら、「後半部分」の中の「前方」なのか「後方」なのかというふうに、指が動き、指が検索する。

 引いている単語がenoughであれば、enoughの訳は、「形容詞」「名詞」「副詞」の3部構成なのを目が把握する。冒頭に挙げた一節なら、ここで見るべき箇所は「名詞」のenoughであることを脳が判っている。

 紙の辞書で引いた方が速いのは、「手」「目」「脳」の三者が相互に連携し合っているからだ。そしてそれはくり返せばくり返すほど速くなっていく。ついには所要時間はゼロにまでなる。だから一発で開くのである。

 電子辞書ではこうはいかない。まずフタを開け、電源を入れ、キーボードでスペルを打つ。小さな液晶画面のスクロールでは、enoughの全体象を俯瞰することはできない。こんな機械的な動作をいくらくり返しても辞書を引くスキルは向上しない。血の通わないメカニカルな作業だから電子辞書に愛着はわかない。

 紙の辞書に手あかやシミがあれば、それは使い込んだ歴史であり証である。使えば使うほど手になじんできてますます手放せなくなる。電子辞書にキズがあれば、それは価値の低下であり使い古された中古品を意味する。時間が経てば、そろそろ新機種に買い換えようか、になる。

●箱やカバーは今すぐ捨てよう

 箱に入ったままの辞書をよく見かける。たいていはビニールカバーもかかっている。辞書は飾っておくものではない。引くものであり、使い込むものであり、そして読むためにある。箱に入っていたのではすぐには引けない。ビニールがかかっていては手が滑る。箱やビニールは「私は辞書はめったに引きません」を物語っている。辞書を引く回数と英語力は比例するから、辞書を見れば英語力がわかる。

 めったに引かないから、「こんなに重くてかさばるものを持ち運ぶことはない、軽くてコンパクトな電子辞書で十分だ」と考える。もともと辞書を引く習慣がないから、電子辞書の引き方も粗っぽい。「品詞」を無視し、「他動詞」「自動詞」の区別もない。液晶画面で最初に表示される意味で十分だと考える。

 ・Motives don't matter. (動機はどうでもよい)。matterは「名詞(事柄)」ではなく、「動詞(重要である)」。

 ・He works the machine.(機械を動かす)。workは「自動詞(はたらく)」ではなく、「他動詞(うごかす)」。

 ・He couldn't make it in business. (彼は商売でうまくいかなかった)。電子辞書でmakeから検索してmake it(うまくいく)までたどり着くのは絶望的に思える。

 電子辞書を使っているとどうしても急いでしまう。気がせいていると文構造の分析が雑になる。電子辞書のデジタル性と精読のアナログ性は決して同調しない。水と油なのである。まともに英文が読めるようになりたかったら電子辞書は封印しよう。紙の辞書に戻ろう。そして箱やビニールカバーは今すぐ捨てよう。

2014年09月21日

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