勝浦英語塾では、英語指導歴30年のエキスパートが、大学受験英語を通して、30年後にも通じる、生き方と在り方とその方向性を伝えています。 

音読してみると

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音読してみると

●音読してみると

 前ページに載せた「ういろう売り」の台詞は、二代目・市川団十郎作の歌舞伎の演目だ。流れるような口調が評判になり、後に、狂言に取り上げられたり落語のネタになったりしている。

 内容は薬売りの口上だが、声に出して読んでみれば分かるように「ひょっと舌が回り出すと矢も楯もたまらぬじゃ」とはいかない。早口言葉の連続のような台詞で、舌が思うように動かない。速く読もうとすれば焦ってトチってしまう。

 放送の世界では、滑舌訓練として一人前のアナウンサーになるための必須教材として取り上げられている。一般の人でも練習すれば、普段しゃべる声や話し方が変わり人前で話すことに抵抗がなくなるといわれている。

 おもしろ半分で音読しているうちに気づいたことがいくつかある。毎日コツコツ読んでいるうちに、いつの間にか原稿が要らなくなった。読み続けているうちにドンドン速くなり、原稿を目で追うよりも速く音読するようになった。

 700回を越える頃、気がつくと原稿を見なくなっていた。暗記しようなどとは考えてもいなかったが、結果的には台詞を覚えてしまった。

 「只管朗読」のなかで國弘正雄氏が言っている「暗記は、覚えようなどとケチな気を起こさず、ただひたすら読むこと」を、思わぬところで実践し体験した。意味があるようでないような内容なので、おそらく、暗記しようと意気込んで始めていたら、どこかでバカバカしくなって挫折していたと思う。しかし、結局、数年かけて3,000回読んだ。

 初めはもどかしく感じていた舌の動きが高速回転するにつれ、心地よさを感じるようになった。とにかく舌がよく回るようになる。少しでも雑念が入ると次の句が続かなくなる。いきおい一気に読み上げることになる。自然と吐く息のほうが長くなり腹式呼吸になる。

 英語を教えていると、授業で日本語と英語を交互に話すことになるが、その切り替えがスムーズに行えるようになった。「英文を読むんだ」と、気構えなくても軽く読みはじめられる。滑舌訓練のおかげで英語の発音にもゆとりがでてきた。

 発声に余裕ができると音の美しさも味わえるようになる。ヘミングウェイの作品の一節を音読していて、その音律の美しさに驚いたことがある。英文の構造上の見事さもさることながら、実際に声に出して読むことで、その文体のすばらしさも体感することができた。

 学生の学力低下が指摘されているが、「音」に対する意識の低さにも目を覆いたくなる。いや、耳をふさぎたくなる。近頃の学生は教科書すら十分に音読してないようだ。音の集まりが言葉であり、言葉が集まって文になり、文が集まって文章になる。

 音読や暗唱は語学学習の基本中の基本だ。音読は単調な繰り返しだが、この基礎訓練を抜きにして語学の習得はありえない。スポーツ界で一流と呼ばれている人は、野球選手なら素振り、力士ならシコ、ボクサーならスパーリングと、その技術習得のために反復する基礎訓練は半端な回数ではない。

 「ういろう売り」の台詞を送ってくれたプロのアナウンサー女史は、ういろう売りの台詞を1日1回読むことにしているとのこと。もう4,000回以上読んでいると話していた。

●続けるには

    平凡なことを、
    毎日、平凡な気持ちで実行することが、
    すなわち非凡なのである。 アンドレ・ジイド

 私の「音読」の歴史は古い。1980年代から1990年代にかけての十数年間、NHKラジオ英会話のスキットを丸暗記してきた。

 継続のコツは例外を作らないことだ。延期したり中断したりする理由は、探せばいくらでも見つかる。忙しいからとか、体調を崩したからといって、決して休まないことだ。

 英字新聞の購読も、決して新聞を溜めてはいけない。今日は忙しくて読めなかったからといって、とりあえずとっておいても、翌日は二日分の新聞を読むことになる。 一日で一紙読めなかったのに、一日で二紙は読めるわけがない。英字新聞を読み続けるコツは、毎日、新聞を捨てるということだ。たとえ読んでなくても、いさぎよく捨てなければいけない。もったいないからと、例外を作ってはいけない。例外は挫折の始まりである。

 今も「英標」の音読を続けている。現在、130回目を音読している。「英標」一冊分の英文を一年で10回のペースで音読してきた。13年続いていることになる。

 やり続けた量や時間数を視覚化すると続けやすい。視覚化すると、到達度や継続期間が目で確認でき、やる気につながる。たとえば、ある文章を繰り返し音読する場合、回数が10回なら正正、15回なら正正正と記録をつけていく。

 昔、英検1級の受験対策としてこんな準備をしたことがある。1960年から1988年までの1級の全問題集を28年分入手し、各年の記述問題とスピーチのトピックをリストアップして、一覧表を作る。

 かなりの分量になるが、やった問題をドンドン塗りつぶしていくと、到達度が一目瞭然となり、達成感や満足感が味わえる。さらに、積み上げてきた量をふり返ることで、これだけのことをやってきたのだから、必ず受かるという自信が生まれる。やり遂げてきた量に誇りが持て、自尊心(self-esteem)が一段と高まる。
 
 受験には、メンタルな要素が思いのほか大きい。受験直前に、不安を訴える人も多い。成績優秀な人ほどその傾向がある。ビジュアルな達成表を作ると、モチベーションが維持されるだけでなく、ここぞというときに自信が生まれ、メンタル面の強化につながる。

●例外を作るな

 次の文はNHKラジオ英会話に載った文である。当時、1ヶ月ほど日本を離れることがあり、「ラジオ英会話」が聴けない状態になった。帰国してから、溜まった4週間分のスキットをまとめて暗記するなど不可能である。テキストだけ持って、海外で暗記だけを続けた。以下は、そのときバンコックのホテルから投稿した文である。

 ―― 着実な積み重ねで ―― (NHKラジオ英会話1984年7月号)

 私は英語をもう一度基礎からトライしているリスナーです。大学を外国語学部で過ごし、4年余りの海外生活を送ったうえ、仕事の合い間をぬってアメリカの大学院でも学びました。比較的英語にもなじみがあり、今さら英会話なんて、という思い上がりがありました。

 ところがある日ラジオから流れてくる「英会話」のスキットをテープにとり、ディクテーションをためしてみたところ、何回聴いても聴き取れないのです。これではと思い立ち、2年ほど前から本格的に「英会話」を聴きはじめました。

 今では自己流のテキスト活用法が定着しています。週はじめにスキットをテープにとり、20回繰り返し聴きます。次に訳文を見ながら英作していきます。これを10回繰り返すとほぼスキットが暗記でき、最後にテキストを見ないでスキットを20回復唱して締めくくります。

 2年分のテキストを前に、自分に課してきた繰り返し50回という規定量を思うと感慨深いものがあります。時たま海外に出ると、スムーズに口から飛び出してくる英語に会話力が着実に身についているのが実感できます。そして口をついて出た表現に相手のnativeがニヤリとしたりすると、ささやかな喜びを覚え、ついこちらもニンマリ。

 外国語を学んでいると、シュリーマンの言葉だったと思うが、"Learning a foreign language is a job which is never finished."という文句がなにかにつけ思い出されます。いつでも初心にかえって“Practice makes perfect."を教訓として、これからも地道な努力を続けていこうと考えています。

 

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