英文が読めないのは単語のせいでしょうか?
なぜ英文が読めないのでしょうか。
「単語を知らないから」「文法がわからないから」「構文が見えないから」「話の内容が専門的だから」「文化的背景が違うから」と、読めない理由は数々挙げられます。
多くの理由があるにもかかわらず、英語が苦手な学生ほど、単語の暗記に必要以上にエネルギーを注いでいます。文法や構文、あるいは内容や文化などと言い出すと切りがないから、単語を覚えるのがいちばん手っ取り早いと考えるのでしょう。
①I found an easy book.
②I found the book easily.
③I found the book easy.
英語が苦手だという高校3年生に、上の三つの文を訳してもらうと、必ず③の文につまずきます。例外なく訳せません。わずか5つの単語だけでできたこの文が訳せないのは、文型に対する認識がゼロだからです。文型という抽象性の高いことがらを勉強するよりも、個別の単語を覚えたほうが、やりがいを感じるのでしょう。「文法」というつかみ所のない概念よりも、「単語」という具体的で実体のあるものを相手にした方が学んだ気になるのでしょう。
しかし、たとえば「副詞節の中では未来のwillは使えない」という文法ルールを覚えることは、「単語の暗記」とはまったく異なります。
「副詞節の中では未来のwillは使えない」の理解には、「副詞節」の理解が欠かせません。そして「副詞節」の理解には、「名詞節」の理解が必須であり、「名詞節」の理解には、「五文型」の理解が必須です。逆にいうと、「五文型」が理解できてはじめて「名詞節」が理解でき、「名詞節」が理解できてはじめて「副詞節」が理解できます。その結果、やっと「副詞節の中では未来のwillは使えない」が理解できるのです。
このように「副詞節の中では未来のwillは使えない」を理解するのは結構やっかいな作業なのです。正確に理解するには、論理的に何段階もステップを踏まなければなりません。この階層構造の根底にあるのが「五文型」です。面倒くさいからと、「ifの中でwillはダメ」とか「whenの中でwillはダメ」と単純化したのでは、もはや「英文法」ではありません。手の込んだ文法問題では必ずつまずくし、いつまで経っても英文が読めるようになりません。
「dog = 犬」を覚えるのは簡単です。しかし、「dog = 犬」を覚えても、知識はその範囲でしかありません。一方、「副詞節の中では未来のwillは使えない」を覚えると、「理解の仕方」を覚えることになるので、それは新たな分野を学ぶ際にも役立ちます。「理解の仕方」では、「論理性」を学んでいるからです。
したがって、「理解の仕方」が身に付くと、「論理性」が求められるあらゆる分野についての理解が、より簡単に、より速く、より深くなります。このことを脳科学の専門家は「学習の転移」と呼んでいます。
英語ができるようになると、当然、第二外国語の習得も容易になります。数学も国語もできるようになります。どんな学校でも、全科目トップのスーパーマンがいるのもこのためです。学科に限らずスポーツの分野でも、テニスが得意な人はゴルフも得意になります。
一匹ずつ「さかな」をゲットするよりも、「さかなの釣り方」を覚える方が役立つのです。
「単語」の暗記では、知識は等差数列的 (1,2,3,4,5……) にしか増えませんが、「理解の仕方」を覚えると、知識は等比数列的(1,2,4,8,16……) に増えていきます。
かりに「1」の知識を持ったA君がいるとします。一方、B君は「1024」の知識を持っているとします。「1024」は2を10乗した数です。A君から見れば、B君は雲の上の存在です。いくらがんばっても追いつきそうにないくらい遙かかなたにいます。
A君が「単語の暗記」にどんなにエネルギーを費やしても、それは等差数列的にしか増えません。1日1個だと、A君がB君に追いつくには1024日かかります。
しかしA君が「理解の仕方」を覚えると、それは等比数列的に増えていきます。「1」からスタートして、9日目には「512」になり、10日目にはB君の「1024」に追いつきます。そして次のワンステップで「2048」となり、B君を一気に抜き去ることになります。
このことについて、『フォレイガン』と題する「体験記」で、卒業生がエピソードを語っています。
かつうら英語塾では、高3生であっても、高1クラスの受講を勧めることがあります。体系的な裏付けのない知識では、高3の授業は、労ばかり多くて空回りするからです。
上級生が、高1クラスを受講し、英文法を体系的に学ぶと、急速に力を付けてくることがあります。もとからいる生え抜きの高3生に追いつき、ときには追い越すことさえあります。成績は、二次関数のグラフのように放物線を描いて急上昇します。
「副詞節の中では未来のwillは使えない」は、高1英文法の、いわばハイライトです。そこをないがしろにして、philosophyやdemocracyといった「単語の暗記」に専念する受験生がいたら滑稽です。単語の意味など辞書を調べればすむことだからです。
「512」と「1024」では、倍と半分の隔たりですが、「理解の仕方」を覚えた学生は、わずかワンステップで一気に肩を並べるのです。
かつうら英語塾HP 「チュンプルズ・あとがき」を改稿
2012年04月26日