声を味方にする

オンライン英会話のすすめ(5)

●自分の声を録音する

8割の人は自分の声が嫌い』・『声のサイエンス』(山崎広子著)を読んで、ラジカセで録音した自分の声を、毎日、聞いている。

スマホや、PCや、ICレコーダーでも簡単に録音できるが、ひと昔前のラジカセが一番手軽で使いやすい。

オンライン英会話のレッスンをラジカセで録音し始めて1年になる。レッスンで言い淀んだり、聞き取れなかった箇所をチェックすることもあるが、録音のおもな目的は、自分の「声」そのものを聞いて修正することにある。

普段、自分が聞いている自分の声はおもに「骨導音」。録音した声は「気導音」なので、改めて自分の声を聞くとかなりの違和感を覚える。しかし、他人が聞いている自分の声は、「気導音」の方。自分の声なんか聞きたくないと、誰しも思うが、実際は、自分でも聞きたくない声を他人には聞かせている。これが現実だから受け入れるしかない。

著者はこう言う。

― 日本人の8割は自分の声がキライだという。自分の声がキライということは自己否定に他ならない。人間の聴覚は妊娠6ヶ月でほぼ完成し、世界についての認識は聴覚とともに始まる。目を閉じれば遮断できる視覚と違い、聴覚は眠っていても閉じることなく、膨大な情報を取り込み続けている。

自分の声がキライという人は、自分自身を嫌悪し、自分自身と向き合うことを避けてきたはず。人生のはじめから終わりまで、ずっとあなたとともにあるその声を味方にできたらどんなに心強いか。

声は意識して聞くだけで、脳が「自動的」に修正してくれる。脳には「自動補正機能」が備わっている。細かいことは気にせずに、録音した声の中から好きな声を探し、その声を耳に定着させる。これを繰り返すだけで、驚くほど声は変わる。声は、「聴覚」「脳」「筋肉」「声道」「息」が作り出している。

声のこの絶妙な連携は、あなたが認識して、あなたの脳が命令を下すことでしか働かない。あなたの声を変えられるのは、あなた自身。あなた自身が最高のボイス・トレーナーであり、どんなトレーナーも、あなた以上にあなたの声の修正はできない ―

●いい声を見つける

普段のままの自分の声を、30分ほど録音してそれを聞くだけで、声がよくなるというのだから、こんな楽なエクササイズはない。

オンライン英会話のレッスンが25分なので、普段の自分の声を聞くのにちょうどいい。録音を意識するとよそ行きの声になってしまうが、英会話に集中しているから、よそ行きにはならない。ありのままの自分の声がチェックできる。英語と日本語の違いはあるが自分の声に変わりはない。

「なんでこんなに早口なのか」「焦ったしゃべりになっている」「間の取り方がヘン」「かん高い笑い声が不快感を与える」「相手がしゃべり終えないうちに、しゃべり出している」「出だしの子音が弱い」「語尾の子音も弱い」「暗く自信のなさそうな声」「こもった声」「どことなく皮肉っぽい」。自分の声に、こんな箇所があることに次々と気づく。

発見するのはイヤな声ばかりではない。自分でも「いいな」と思える箇所を見つけることもある。「発音にメリハリが効いている」「リズミカルで歯切れがいい」「落ち着いている」「絶妙に間が取れている」「力強い」「自信に満ちている」

●いいと思える声こそ本物の声

録音した声がイヤだなと思うのは、聞き慣れてないというだけではない。だれでも「作りものの声」には嫌悪感を覚える。人は、少しでも自分をよく見せようとして、無意識のうちに声を作っている。それが癖になり、心身を疲れさせ、原因の分からないつらさを引き起こす。自分自身の本来の声を取り戻すことによって、心身の健康を取り戻すことができると著者はいう。

著者はこんな例を挙げている。

Y子先生は小学校2年の担任。授業は学級崩壊状態。「ちゃんと席について!」「静かにしなさい!」「先生の話を聞いて!」

こんなふうに大声で叫んでも学教崩壊は収まらない。

Y子先生に録音した自分の声を聞いてもらった。「こんなヒステリックな声だとは思わなかった」「私が生徒なら、こんな声の先生はイヤだわ」とショックを受けていた。

彼女に自分の声を録音してもらい、「この声ならOK」と思える声を探してもらった。2ヶ月ほど録音しては聞くを繰り返してもらったところ、まるで人が変わったように落ち着いた話し方になった。その結果、学教崩壊がピタッと収まったという。保護者の態度もガラッと変わり、「Y子先生が教室に奇跡を起こした」と言われたそう。

学教崩壊の原因となるようなワンパクほど心は繊細。そんな子は先生の声に含まれるイライラや怒りを敏感に感じ取っている。Y子先生の声が本物の声に変わり、彼女の優しさや真面目さが生徒に伝わるようになり、クラスは正常に戻った。

クラスをまとめるのに苦労して行き詰まりを感じている先生は多い。自分の声を録音し、それを聞き、本物の自分の声を見つけて欲しいと著者はいう。

●声を味方にできれば心強い

自分の声を録音し、それを聞くようになってから、英会話のスキルが向上したのは言うまでもない。授業で生徒に対する説明能力や説得力が、「声」の力によって、一段とパワーアップしたと感じている。

それ以上に、人生を前向きに切り開いていこうとする力、すなわち生命力のようなものがいっそう活性化したと感じている。

「声」の力は侮れない。

2019年1月15日