「恐怖心」は3日で克服できる   

オンライン英会話のすすめ(1)

●オンライン英会話は手軽で安い

オンライン英会話を始めて半年になる。

講師の先生はフィリピン人で、Skype(無料のテレビ電話)を使って、フィリピンと交信している。画像は鮮明で、ヘッドフォーンを使わなくても、音声は雑音もなくクリアー。声だけが頼りの電話と違って、ディスプレーの画面上で、相手のジェスチャーや口の動きまでがリアルに確認できる。Skypeのおかげで、普段しゃべるのと同じ雰囲気でしゃべることができる。毎日25分間のレッスンを受け、受講回数は200回を超えた。

日本で生活している限り、英語など話せなくても生活で困ることは何もない。会話力を身につけようにも、日常的に英語を話す環境にないのだから、英会話の習得は難しい。英語をしゃべる機会がない日本人にとって、オンライン英会話は、救世主のような存在だと言える。

私が受講している『レアジョブ』は、月額およそ6,000円。1回25分のレッスンを受けることができる。毎日受講すれば、1回当たりの料金は200円。喫茶店で飲むコーヒー1杯より安い。

Skype のインストール方法や使い方は、『レエアジョブ』のカスタマーサポートが、懇切丁寧に電話で教えてくれる。

●大きなハードル

英会話学校で、10人のグループ・レッスンを受けた場合、60分授業なら、しゃべる時間は、週に1回で、1人当たりにすれば平均6分。これで英会話力が身につくとはとても思えない。

オンライン英会話はマン・ツー・マン(one-on-one)なので、集中力と緊張感が、グループ・レッスンとはまるで違う。グループ・レッスンでは、積極的に関わらない限り、その他おおぜいの中に埋没してしまう。だが、オンライン英会話では、常に画面の先生と向き合うので、片時も気が緩むことがない。

英語を初めてしゃべる初心者の気持ちはこうだろう。Skypeの呼び出し音が鳴る。この瞬間から、心臓が飛び出すほど脈が速くなる。途中で行き詰まっても誰も助けてくれない。逃げ出したくなるほど追い詰められる。これから25分間、孤立無援の状態で目の前の先生と英語でしゃべらなければならない。そう考えるだけで凍りついてしまう。

外国語がしゃべれるようになるには、目の前の外国人に対して抱くこの心理的な壁を克服しなければならない。家人は中国語会話を勉強している。街で中国人らしき旅行者を見かけたとき、「話しかけては?」と冗談まじりに背中を押したところ、「何するのよ」と怒られた。だれでも最初は、外国人に話しかけようとするだけで、このように尻込みしてしまう。

まわりの人に「オンライン英会話」を勧めると、必ずと言っていいほど、「しゃべれるようになってから」という返事が返ってくる。「しゃべれるようになるために」勧めているのに、「しゃべれるようになってから」は、自己矛盾。文字通り本末転倒だが、それぐらい心理的ハードルは高い。「泳げるようになってから水に入ろう」では、永遠に泳げるようにならない。

●3日で恐怖心は克服できる

オンライン英会話は、自宅の部屋でできる。英会話学校に通う必要がないので、通学時間のロスがない。マン・ツー・マンなので、その他おおぜいのうちの一人にはならない。常に当事者として、目の前の先生と向き合う。25分間、逃げ場のない緊張感を味わうことになる。これを毎日経験することで、心理的な壁が徐々に薄らいでいく。メンタルなバリヤーを取り除くには「慣れ」しかない。

慣れるには、まず3日を目標にするといい。3日続けば、次は1週間。1週間続けば、1ヶ月続けられる。1ヶ月続けば、3ヶ月続けられる。「25分間だけ」と割り切って、まず3日だけは続けよう。3日の後は、もう4日頑張れば1週間になると考える。そう考えれば、1週間は必ず達成できる。1週間続くと、恐怖心はかなり和らぐ。日にちを空けて、断続的に7回チャレンジするよりも、毎日、連続して7日間続ける方が早く習慣化できる。恐怖心は確実に消えていく。

●言葉を変えれば気分が変わる

私自身、最初の頃、こんな言葉を口にしていた。

I’m very nervous to take your lesson for the first time.
(初めてのレッスンで緊張している)

こういう言葉は、相手の同情心を期待したり、手心を加えてもらいたい甘えからくるのだろう。すぐに使うのを止めた。今はこう言っている。

I’m very excited to take your lesson for the first time.
(初めてのレッスンでワクワクしている)

緊張感も、ワクワク感も、ある種の心のざわつきを指すから同じようなもの。意味に大差はない。言い回しを変えるだけで、気分はずいぶん違ったものになる。

nervousという言葉からは、ネガティブな後ろ向きの、excitedという言葉からは、ポジティブな前向きな態度が生まれる。

相手の先生の立場に身を置けば、生徒から「緊張している」と言われるより、「ワクワクしている」と言われた方が、印象もいいに決まっている。

こんな表現を使うと、どの先生も必ずにっこりほほ笑む。

I’m as ready as I’ll ever be. (準備万端、いつでもOK)

アランは『幸福論』の中でこう言う。

――雨がふってきた。「また、雨か、なんということだ、ちくしょう!」と言ったところで何の役にも立つまい。どうせ言うのなら、「ああ! 結構なおしめりだ!」と、なぜ言わないのか。からだ中に張りが出てきて、本当に温まってくる。――(岩波文庫p210)

●集中力が鍛えられる

オンライン英会話を始めた当初は、25分はとても長く感じられた。25分は集中力の限界に思える。特に最初の3日間はとても疲れる。なぜだろう?

日々の言語生活を振り返ってみて、人と真剣に向き合ってしゃべっている時間はどれくらいあるだろう。女子高生など、「まじっ!」「うそっ!」「かわいい!」の3語だけで、延々と会話を続けている。たわいない時候の挨拶や、便宜的な情報のやりとり、だらだらと続くとりとめのない会話を除くと、多忙な現代人にとって、人と真剣に向き合うプライベートな時間など皆無かも知れない。

オンライン英会話では、25分間はとにかく集中を強いられる。私は、『レアジョブ』が毎日配信しているDaily News Articleという300語ほどのニュース記事を教材に使っている。内容は、Business、Technology、Health、Human Interest、Education、Science、Family、 Lifestyle、Entertainment……と多岐にわたる。

記事を読んで、先生からはこんな質問が飛んでくる。

「第1、第2パラグラフを要約せよ」
「どのパラグラフが印象に残ったか、なぜ?」
「この記事全体を要約せよ」
「この記事からあなたは何を学んだか」

質疑応答の流れの中で、プライベートな話題に展開していったり、先生からのコメントが加わったりする。内容はともかく、いやでも集中せざるを得ない仕組みになっている。

質問を真剣に聴いていないと答えられない。質問には集中して耳を傾ける。上手く答えられたと思っても、その答えに対して、さらに質問を浴びせられることもある。答え終わったからといって、気が抜けない。こうした言葉の応酬が続き、集中力が途切れることがない。精神は研ぎ澄まされ、脳はいやでも活性化される。

25分間のレッスンを終えると、緊張感から解放される。安堵感とともに、充実感と達成感に包まれる。毎朝、こんな濃密な25分間を送っている。

2018年06月04日